第22話 ページ22
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情けない。
不甲斐ない。
手さえ、握れないなんて。
「どうなってんだよ……」
寝ても覚めても、アイツのことばかり考えている。
アイツの手の感触を思い出して、苦しくなる。
NGは今のところ出していない。不思議なことに。
撮影は順調。完成度は期待以上。
撮影状況をSNSにアップすれば、期待の声が多い。
しかしそこに、
――――俺達の心は無い。
物理距離を1ミリ縮めれば、
心的距離が1センチ離れていく。
交わす台詞が増えれば
会話が無くなる。
もう何もわからなかった。
俺に何を望んでいるのか。
俺が何を望んでいるのか。
ただ、無性に胸が痛かった。
「天馬くん、大丈夫?」
「…紬さんか」
「ドラマのこと……だよね」
「……あぁ」
――――待っていた。ずっと。
台本の俺の名前の隣に、アイツの名前がある。
それを想像しては、叶わない現実に落ち込んだ。
歳をとって、子役ではなくなって。
たくさんの人と共演して、たくさんの役を演じてきた。
でも、いつだって。
俺の隣に並ぶのは、アイツよりも数段劣った顔だけの女優ばかり。
「10年前から、俺の相手役はアイツがいいって思ってた。子役じゃなくなって、最初の作品なんかは特に。…叶わなかったけどな。
やっとこうして隣で、望んでいた最高の演技が出来る」
――――はずだったのに。
あの頃以上の演技力を身に付けて、
その容姿にも磨きがかかって。
撮影初日なんて圧倒されてた。
掛け合いのレベルが上がった。
演技の幅が広がった。
仕草一つでさえ完璧に役にハマってる。
……どこかで甘く見ていた。
10年経っても、同じように出来るって。
出来るはずがなかった。
「アイツの手が震える。
怯えた目を必死に隠してる。
それが伝わる度、傷つけていると感じる度、
手が、声が震える。
――――逃げ出したくなる」
だって俺は誤魔化せないから。
「今はまだ、なんとかできる。
でももう……これ以上は分からない。
自信が、無い」
完璧に“涼”を演じるアイツに、
自分が相応しくないと思えてきて。
申し訳なさそうな目も。
冷たく冷えていく指も。
ひとつひとつが苦しくさせる。
傷つけあう様に、距離は縮められる。
他人の言葉で、俺じゃない
「――――俺を、拒まないで」
苦しくて、息ができないくらい
Aの隣にいられなくなるのが、怖い。
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春野さん(プロフ) - 完結おめでとうございます!タイトルからこんな風に繋がるとは思ってなくて、思わず涙が出ました。本当に素敵な作品だと思います。この作品に惹かれたのがきっかけで天馬最推しになった位(笑)次回作やアナザーストーリー、あれば期待しています、頑張ってください! (2018年8月31日 10時) (レス) id: 43b6e8fc40 (このIDを非表示/違反報告)
ゴム手袋(プロフ) - いいところで更新停止ー!!!めちゃくちゃいいとこでー!!!待ってますー!!!!! (2018年8月7日 10時) (レス) id: 2405ca442d (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - 狂さん» コメントありがとうございます!嬉しいです…!頑張ります!! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - Mareさん» コメントありがとうございます!更新できるように頑張りますね! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
狂(プロフ) - とても引き込まれました!頑張ってください! (2017年12月29日 11時) (レス) id: 4e15e8f7b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2017年12月7日 17時