【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ10)

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藤ノページ10

【へし切長谷部】

・

＿＿＿＿その少女は、名を A という。

「こんな所で何をしている」

“ 家族になりたい ” なんて。
そんな理由で、神に真名を晒した少女。
危うさの中に強いものを感じさせる瞳に、魅入られた者は既に半数。

突如この本丸に現れた、謎ばかりの姫君。

「こんな夜更けに女が自室から出るな、不用心だぞ」

中途半端なその警戒心が、もどかしい。

「おい、聞いて＿＿＿＿っ！？」

可笑しいんだ。
まるで、水鏡に映る虚像のように。

「…何故、泣いている？」

朧気で不確かな
消えてしまいそうな儚さが

( …泣いてなど、欲しくない )

＿＿＿＿焦がれるように。
胸を締め付けて、息苦しくなってしまうから。

いつかに似た痛みが、煩わしい。
思い出したくない光を、思い出す。

「＿＿温かく、て」

＿＿＿＿いつかの自分を、見てるようでもあって。

「皆、優しくて。
私、いつも1人だったから。
ずっと＿＿羨ましくて」

だからかもしれない。
きっと今日の俺はどうかしてる。
全部、全部此奴のせいだ。

らしくない事だってしてしまう。
その手に触れてしまう。
少し＿＿＿＿側において欲しくなる。

「…長谷部？」

「……まだ寒い。話は聞いてやるから暖を取らせろ」

肩を抱いて、引き寄せて、はっとする。

( なんでこんなに……弱々しいんだ、女は )

人の身を得て、感情を知った。
それでもまだ、分からないことなど山ほどある。

それは例えば女。
刀の付喪神として人の手を渡りながら眺めているだけでは、こんなに小さく弱々しいだなんて知らなかった。

同じ人でも
男と女では何もかもが違うのだと、知るはずが無かった。

上手い慰め方なども知らない。
でも＿＿＿＿放ってなどおけない。構いたい。

これは、同情や哀れみとは違うのだろうか。

「長谷部って意外と優しいね」

「意外とって…失礼だな」

「なんか、安心するし」

「子守は向いてないんだが」

月光が、彼女の右耳についた石を照らす。

「……その石、模様なんてあったのか」

「…っ」

小さな耳に触れて、石を覗き込めば
確かに浮かんだ模様。

( これ、どこかで ).

「っ、なんだ！？赤く…！」

＿＿＿＿例えば、熱。

触れたところから赤く染まる耳から手を離せば
自分の手も熱く、

その大きな目の中には
戸惑う自分が映る。