【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ9)

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心ノページ9

【加州清光】

政府からの勅令って時点で
その少女が何かしら訳ありな事は気づいてた。

「あの、本当に、美味しいよ、ちょっと言葉に出来ないくらい！！」

拙い言葉とか
ぎこちない笑みとか
少しおかしな箸の持ち方とかも。
彼女を構成するものは
ちぐはぐで曖昧だったから。

( 愛されてなかった、なんて )

主＿＿＿＿上総から聞いたのは、
政府から送られてきた資料に書かれていたという彼女のこれまでの事。

ちぐはぐで曖昧なそれに欠けているのは
全部本当なら与えられるはずのものだったのかもしれない。

「そんなに褒められると嬉しいな。遠慮せずに食べてね」

誰もが。
その繊細な心が傷つかない様に＿＿＿＿傷つけてはいけないと、本能で感じてる。

見え隠れする色んな心が
彼女を傷付けることがあってはならないと。

＿＿＿＿守ってあげたいと。
＿＿＿＿愛してあげたい、と。

あの困った様な赤面を見た瞬間に浮かんだのは
本来の俺なら知り得なかった心だ。

「燭台切の旦那と歌仙の旦那の料理は絶品だからな！いっぱい食べてくれや」

「俺も手伝ったんだぜ！な、みっちゃん！」

「うん、そのおひたしは貞ちゃんが作ってくれたんだよ」

「…美味しいよ、貞ちゃん」

「姫に言われると照れるぜー」

少しずつ。少しずつ。
でも、確かに進みだした箸に安堵する。

強ばっていた表情が緩んでいくのが、どうしようもなく嬉しい。

背丈は決して低くない。
だけど、女の子というのは俺達とは全然違って、
手も足も、肩幅も、細くて小さくて。

すぐに壊れてしまいそうだから、
目が離せない。

「清光？大丈夫？箸、止まってる」

「…っ、ああ。大丈夫大丈夫。姫こそもっとがっつかないと他の奴らに食べられるよ」

そういえば焦って色々と口に入れていく。
…あ、頬張りすぎって歌仙に怒られそうだな。

けれど、さっきよりも彼女らしさが戻ってきているのを横目で確認しながら俺は味噌汁を啜った。

＿＿＿＿そしてそれは唐突だった。

「姫ってやっぱり嫌だから。

＿＿＿＿Aだよ、A。私の名前」

…え？

「…ちょ、っ！？真名は伏せるようにって、あれほど！「やっぱ嫌だ」…は？」

力強い視線が、真っ直ぐに。

「皆とちゃんと、家族みたいになりたいから。
隠し事はしない。

だから、」

＿＿＿＿愛して。

呑み込んだ言葉が、俺には聞こえた気がした。