【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ8)

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隠サズページ8

「ひめさまはぼくのとなりですよ！」

「ぼ、僕も……姫様の隣が、いい、です…」

「えー！？僕の隣に座ってよ！いいよね？姫！」

「いやいや！姫君は俺の隣がいいぜ！なんたって俺は伊達男だからな！」

「じゃあ僕は姫の懐～」

「「それはない！！」」

どうも。Aです。

現在、夕餉の時間。
長い机を全員で囲って食べるのだけど、私の隣に誰が座るかで短刀達が揉めている。

可愛い。ここが天国かもしれない。

「揉めるくらいなら姫は主の隣にするよ？」

「え、それ俺が嫌なんですけど」

「仕方無ぇ。おひいさんは俺っちと加州の旦那の隣な」

「む～……しょきとうときんじがそういうならいいですよ」

「明日は僕の隣だからね！」

此処の本丸は初期刀、中でも清光と上総の近侍である薬研の言う事は主命の次に優先されるらしい。

残念そうな短刀達には悪いけれど、私のお腹は今にも鳴りそうだ。…正直早く食べたい。

目の前に並ぶ純和風の料理の数々。
今まで見たことの無いような美しさに私はもう我慢の限界だった。

「じゃあ明日は今剣と乱の隣に座るね」

「やくそくですよ！」

「それじゃあ、もういいかな？折角の料理を冷ましてしまうなんてかっこ悪いからね」

「それでは、いただきます」

「「いただきます」」

和気あいあいとした空気の中、皆が美味しそうにご飯を食べている風景は、新鮮だった。

楽しそうな声。
時々聞こえる笑い声。
温かい、世界。

まるでそれは一つの家族のようで
胸が熱くなるのを感じた。

＿＿＿＿『御前ガ共ニ食事スルナド許サレナイ』

頬張った煮物の味がこんなに美味しいなんて
私は知らなかったのだから。

「……姫？美味しくなかったかな？」

「えっ、いや、」

向かいに座っているのは
この料理を作ってくれた燭台切光忠。

彼は、困った様に笑いながら悲しげに私に問いかけた。それに私は戸惑った。

( なんて言えばいいんだろう )
( どう言えば、いいんだろう )

気付けば全ての視線が、私に向かっていた。

美味しくない筈なんてない。
言葉にする方法が、ただ、分からなくて。
急にその視線が、怖くて。

( 嫌われたく、ない )

「＿＿＿＿美味し、すぎて」
「今まで生きてきて、1番美味しい。
こんなに美味しいご飯、初めてなんだ」

拙い言葉を繋げてみても、
急に心を支配する不安が、拭えない。