【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ37)

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愛シページ37

【薬研藤四郎】

足枷なら、たくさん付けたはずだ。
それでも足りないなら、幾つだって誂えてやる。
何もかもを、与えてやる。

今度こそ、離したりしない。

「他人に手を引かれるな。
己の意思を曲げるな。
何かに屈するな。

俺の主は、そんな腑抜けじゃア無いだろ」

「…よく言う、薬研通吉光」

「それから、俺の主はアンタじゃないぜ信長」

まだ言ってない。
まだ教えてない。
まだ、あの約束を、果たしてない。

美しい羽根を伸ばせ。
鮮やかに舞え。
蝶のように、自由になれ。

俺の大切な＿＿＿＿揚羽蝶の姫。

「今度は、添い遂げてみよ。
＿＿＿＿粟田口、薬研通吉光よ」

消えない傷痕の、
柔い陽だまりの、
気高き清心の、

そんなお前を、
＿＿＿＿愛してしまった、俺の罪。

「欲深き人間。
その娘、俺が貰い受けよう」

素敵な夢は、
お前を幸せにはしない。

「あ、あぁああああああ！！！！」

恥じろ、己を。
悔やめ、その穢れを。

我が愛し女に触れた報いだ。

「……やげん」

「あぁ、A」

「やげ、ん」

「…………全員、外に出ろ。今すぐにだ」

他の刀ではいけない。
俺でなくてはいけない。

何度生まれ変わろうと、
何度巡り会おうと、
何度互いを忘れようとも。

その宿命を背負い、
己が罪を認め、
許されなくとも、もう、いい。

「やげん。薬研通、吉光。
私の、私だけの、刀」

「ああ」

「私、貴方と約束してた。そうでしょう？」

「…ああ」

＿＿＿＿『あのね、やげん。やくそくしてほしいの』
＿＿＿＿『なんだ？』

これから先。
様々な悲劇が起きて、
誰かが嘆き悲しんで、
たくさんのものを傷付けて、
私が、＿＿＿＿私でなくなったら、その時は。

・

・

「殺せ、薬研」

飾らずとも、
この刃で、
大切な貴方を、解き放つ。

「俺は、アンタを愛してた。
＿＿＿＿忘れないでくれな、永遠に」

優しい姫。
愛しい姫。
俺だけの、姫。

「愛してる、薬研」

業火に溶けるように、
その言葉を呑み込むように触れた。
その頬に、
ただ1滴を滑らせて。

「俺も、愛してる」

漏れ出した赤に混じって溢れた神気が、
炎を巻き込んで、
蝶となって飛んでいった。

＿＿＿＿目を開けない彼女のように、美しく。