【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ34)

今日:17 hit、昨日:11 hit、合計:181,607 hit

慈シミページ34

【鶴丸国永】

桐生颯馬。
政府の研究機関で働き、唯一の政府直属本丸の主。
織田家で生まれた少女に神気を使って、遠い先祖“織田信長”の魂を融合させ、その特異効果として刀剣男士達を本霊同等の能力に引き上げることが出来る存在、通称“神の贄”を生み出す。

しかし、彼はその事を悔いた。
人ならぬものに変えてしまった罪悪感は、彼を深く傷つけた。
最愛の“弟”と歳の近い、少女の名を奪った事が。

そうして、逃走。
少女に名を与え、人の生活を送らせて、
少しずつ笑うその少女を愛していた、深く。

しかし、そんな日々は長くは続かない。
政府の部隊は本丸を襲撃。
放たれた火の中、特異効果を発揮した少女に感化された薬研藤四郎、薬研通吉光により元主と同じ道を辿る筈だった少女に代わり刺され、絶命。

自らが殺し、愛した少女の記憶にも残らぬまま
その生涯を閉じた。

零れ落ちた、その手から。
もう、あの日は戻ってくることなどないなら。
震えるその身を、壊れぬ様に離すしかないのだ。

「薬研藤四郎。清洲A。
そして、この日を知る全てのモノ。

＿＿＿＿忘れよ。悠久の中に」

彼を覚えているのは、
その悲劇を知るのは、

＿＿＿＿『救ってくれ、国永。どうか』

「颯馬………颯馬……っ……」

傷むのは、
この俺だけで、十分だから。

“あの日”は、消え去った。
初めから、“神の贄”など存在するはずの無いものになった。
まさに、夢幻。

清洲Aは、元の家族の元に返した。
刀剣達は主を忘れた。
あの優しかった彼を。
唯1人、あの日の犠牲となった彼を。

俺は嘘をつき続けた。
彼は、嘘が上手かったから。
同じように、誰も傷つかぬように。＿＿なのに。

＿＿＿＿『Aだよ、A。私の名前』

運命は、彼を許しはしない。

「どうして、許してやれない」

邪魔をするなら、切ってしまおう。

「どうして彼奴は、幸せにはなれない」

綻んだら、何度でも繕ってやる。

「どうして、2人は離れられない」

俺への、最期の主命を守りたいだけなのに。

「どうして、まだ。
＿＿＿＿お前は笑えてないんだ、A」

何故、
こんなにも、愛してやりたいのに。

「人間の、愚かさが愛おしい…っ」

全てを終わらせる覚悟が、まだ無い。