【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ32)

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在リページ32

『セヲハヤミイワニセカルルタキガワノ
ワレテモスエニアハムトゾオモウ』

＿＿＿＿あの人は、上手な嘘つきだった。

「遂に成功したぞ！！」
「これが、神の贄……！」
「これで我らは、必ずや遡行軍に勝利できる…！」

「やりましたよ、桐生さん！！」

こちらを、うでをくみながらみていた
ひとりのおとこ。

そのめにやどっていたのは、
歓喜や達成感ではなく
大きな後悔だった。

「俺は桐生颯馬。お前の父親みたいなものだよ」

きりゅうそうまというその男は、
私の手を引いて歩きながら、そう言う。
一瞬でも、目を合わせることなく。

「きりゅうそうま。“かみのにえ”ってなに？」

「……っ………お前と神様を懇意にして、本霊を呼び覚ますの」

「こんい、って？」

「お前と神様が、互いに好き合うこと」

「すき？」

「一緒にいたい、ってこと」

幼い心では、その意味は分かりかねた。
けれど、何処かで気付いていたりもした。
きっと私は、何かの為に使われるのだと。

きりゅうそうまは少し冷たい人だった。
必要最低限の事しか私に関わらないし、私を見ることはやはりない。
それが、初めて見た時に感じた罪悪感のようなものと関係があるのは明確だったが。

彼は私に感情を教えた。
私に言葉を教えた。
私に知識を与え、神気の使い方を教え、

「ごめんな」

言葉にしてはいけない何かがあることを、
暗に教えた。

そうしてしばらく経った後、
彼は、遂に何かを振り切った顔をした。

【ジッケンタイ、トウソウ
ジッコウハン＿＿＿＿キリュウソウマ】

私の手を引き、必死に走ったその先で。
私は、彼等に出会った。
必然にも似た、運命で。

「お、君には珍しく息を切らしてるじゃないか。
＿＿＿＿ん?それは君の子か？…これは驚いた」

真っ白な其の姿は、
さながら絵本の中の王子様のようで。
その時10になったばかりの私には、
初めての世界だった。

「君、名前はなんだい？」

「なまえ？」

「そう。君が親からもらった、君だけの証明のことさ」

そして、私は＿＿＿＿

「＿＿＿＿A。
その子の名は、Aだよ」

「……A……？」

「Aか、いい名じゃないか」

その時初めて、
この世に存在した。

そして、惹かれていった。

「アンタ、Aって言うのか。
兄弟共々よろしく頼むぜ、主のおひいさん」

紫の、面影に。