【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ4)

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紫ノページ4

【薬研藤四郎】

視線をさまよわせながら、必死に状況を理解しようとしている目の前の少女。
大人しそうな顔をして大将の脇腹を的確に蹴り続けてるのだから拍子抜けした。
意外とお転婆なようだ。

「えっと……やげん、さん？」

「おう、薬研でいいぜ。敬語も必要ない」

「じゃあ薬研。なんで私は此処に？」

そう言って戸惑いながらも首を傾げる少女には、もう戸惑いの色はあんまり見えなかった。

( お、順応性は高そうだな… )

「その件については後で大将から説明するそうだ。
不安は残るかもしれねぇが、俺達はアンタに危害を加えることは絶対ないから安心しな」

「んー…分かった」

警戒心はあるようでよかった。
何せここには男しかいない。
幾らワケありだとしても間違いが無いとは限らないからな。
＿＿＿＿勿論俺っちは何もしないぜ？

何か思案するように黙った少女は、突然思い出したように顔を上げた。

多分、これは。

「そうだ！えっと、私は＿＿＿＿」

「おっと。それはまだいけねぇな」

「え？」

そっと、薄い唇に指を置いてみれば顔を紅くした。
成程、こういうのは不慣れらしい。
少し楽しんでいる自分に、内心で笑った。

「アンタの名は、まだ聞いちゃいけねぇんだ。
その理由も大将から言われると思うぜ」

「わ、分かったから。顔近いよ薬研」

「なんだ、照れたか？」

「年上からかって楽しまないで薬研」

「年上、ねぇ……」

愉快愉快。
無知な少女は全て知ったらどうなるのか楽しみだ。
意地悪なのは分かっているが大将からの命令だし＿＿＿＿というか普通に面白いし。
依然、顔を紅くしたままの少女を見て、再度俺は口の端を歪めた。

「それで、落ち着きましたか？」

「大将。あぁ、もう大丈夫だろう」

「……」

「(あれはマズイと思ってる顔だな)」

分かりやすく顔に出る少女を横目に見て、俺は口を開く。

「おひいさんは男に不慣れならしい。さっきのあれはそのせいだから責めてやるなよ、大将」

「…別に、怒ってないです。あれは俺にも若干、非が有りましたし。それくらい分かってますよ」

「ならいいんだが。＿＿また後でな、おひいさん」

「うん…？またね、薬研」

首を傾げながら手を振った少女に手を振り返して歩き出す。
面白くなりそうな予感に胸を躍らせながら、最初に名を呼ばれた事に少しの優越感を感じていた。