【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ29)

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桃ノページ29

【宗三左文字】

「宗三！！行くな宗三！！」

「煩いですよ。そんなに言うなら貴方は戻りなさい不動」

「でも…！」

間違いない。
何度も何度も見間違いだと疑った。
それでも、その度に寧ろ確信させられた。

あの娘を、自分たちはよく知っている。

( 皆、惹かれて、狂ってしまった )

あの強さに、寛大さに、威厳のある瞳に。
変わらない勇ましさに。

「A！！」

「宗三左文字……！？」

「ひっ……A……その目……！」

薄く笑う緋色の瞳の奥には、
何の感情も持たない、冷たさだけがあった。
その赤い宝石に刻された紋様が、やけに鈍く光る。

「どうしたの？宗三」

あの、恐れてばかりの小娘は
遂にいなくなってしまった。

「その娘のフリをするのはやめなさい！
貴女は……貴方は……何なんですか………ッ」

どうして。
どうして、死なせてやれなかったんだ。

どうして。
あの娘を、独りで戦わせてしまっていたんだ。

「＿＿＿＿相変わらず美しいな、宗三左文字」

鈍色に光る“揚羽紋”は、
魔王の証。

はっきりとこの目に映る其の姿に滲んだのは
あの男＿＿＿＿織田信長の面影だった。

「信長、さま……？」

「お前は不動か…やはり人の姿になってもお前は良いな」

「黙りなさい！
……貴方が何故、ここにいる。
何故＿＿＿＿その娘に寄生している？」

絡みつくように深く
交じるように溶け合い、
“A”という人間の娘に寄生するその魂は、
歪に笑ってみせる。

不覚にも、
少女の顔で、美しく。

首元に充てがわれた切っ先に怯える事も無く、
ただ、この状況を楽しむように。

( 何故、こんなモノが…… )

人の摂理を逸脱した、
＿＿＿＿異質なバケモノ。

「そんなのは己にもわからぬ。
ただ、目が覚めてみればこの娘の身体を手に入れていただけのこと。

＿＿あぁ、そう言えば周りの人間がこんな事を言っていたな」

鋭い視線が肺を刺したように、
息ができなくなる。
冷ややかな汗が、背を流れた。

「“神への贄”。
どうやらこの娘と俺は、お前等神のためにつくられたモノであるらしい」

その声音が、
人によって生み出された異質な存在である2人の、
激しい怒りであるのだと気付かせた。

【敵襲です。速やかに臨戦態勢を整えなさい。
＿＿＿＿早く！！】

遠く鳴るサイレンの、
その音の不穏さがその罪を色濃く染める。