【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ28)

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放ツページ28

【薬研藤四郎】

ここにいる皆が、
自分がどういう存在なのかは理解していた。

していた、つもりだった。

「加州の、旦那……ッ…
＿＿＿＿じゃ、ない…ッッッ！！」

視界に広がったのは、見知った黒の衣装では無く。
華やかに映える浅葱色と、高い位置で一本に結われた黒髪。

こちらを振り返るその緋色の瞳から発せられる威圧感が、何処か彼女を彷彿とさせた。

「ふーん……“旦那”、ね」

「あっ……いや……」

鋭いつり目も、
可笑しそうに笑う笑い方も、
全部、そっくりなのに。

神気が。
覇気が、違う。
俺達のような＿＿＿“分霊”とは。

「“薬研通吉光”ってもっとデカくて冷酷な奴だったけど、“分霊のお前”は随分と可愛いらしいな」

「そういう貴方も“分霊の加州清光”とは違って、“本霊”は随分と可愛げが無いですね」

そう、目の前にいるのは“本霊”の加州清光。
数年前に発見された、紛れも無い本物。
その、付喪神。

記憶と能力を共有しているだけの分霊とは違い、
その刀身に染み渡るのは“人間の血”。
数多の生命を、消し去ったモノ。

本霊に近いとはいえ、
刀剣男士として顕現された俺達の刀は所謂“写し”。

まだここにいる誰も、“人間”を切った事は＿＿ない。

故に、本霊と分霊の間には明らかな経験値の格差が生じる。

( 機嫌を損ねて切りかかられたら＿＿死ぬ。確実に )

怪訝そうな緋色は、ある1点を見つめている。

「＿＿＿＿強く、惹かれた」

その横顔だけは、
俺達のよく知る分霊の加州清光と同じだと思った。

「あれは、何なの？」

「あれ、とは？」

「あの特殊な神気。名は、確か…」

「清洲Aという人間でしょうか」

「きよす？……いや、違うね」

愉しげだった。
可笑しそうに、俺を見て、笑った。
あの綺麗な笑みじゃなくて＿＿＿＿嘲笑。

渇いた笑い声の後に紡がれた言葉は、
守りたかったモノを壊すには十分過ぎた。

「まさか、覚えてない訳ないね？
それとも認めたくなくて嘘をつき過ぎた？

清須A？…そんなのは知らない。
あの娘の事はお前の方が良く知ってるはずだ」

気付かなかった訳が無い。
その神気が分からないはずがない。
最期のその時まで、共にいたのだから。

ただ、次会う場所が、
＿＿＿＿優しい世界であって欲しかっただけだ。

「＿＿＿＿あの娘の魂の名は、織田信長。
俺が、唯1人、全てを掛けた者だ」