【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ22)

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傷ミページ22

何も無かった事にした。
呑み込んだ言葉に、滲ませて。
ただ、全てを無かったことに。

「あ！Aちゃん！もう大丈夫なの？」

「うん。乱は遠征？」

「そうだよ、行ってくるね！」

「いってらっしゃい」

大きく息を吸って、もう一度眠って。
あった事なんて、忘れてみせる。

私はまだ、“清洲A”でいたいから。
二度と、あの名を口にしてはいけない。
その存在を、消してしまわなければ。

だから＿＿＿＿口付けを交わした。
彼の記憶を、奪うように。

「A」

「清光」

＿＿＿＿それが、何をもたらすかを知らずに。

「もう平気そうだね」

「うん。今日からは上総にこき使われるけどね」

「ははっ、…俺も手伝うからさ、頑張ろ」

「手伝ってくれるの？やった！」

ふわり、と香った香り。
少し甘い、彼の香り。
優しく頭を撫でる手も、変わらない。
なのに。

「……っ……！」

５センチ先の瞳が、
私の知らない彼を滲ませる。

「俺はさ、此処の初期刀だしね。
Aの事を、誰よりも近くで守ってあげる」

紅く燃えるような瞳。
彼の綺麗な瞳。

何が変わってしまったのだろう。
何が引き金となったのだろう。

あれは、
あの熱は、

( 男……だ… )

触れる指に纏わる空気は、甘さは。
彼がもう、ただの刀では無いと語っていた。

彼はもう、
今までの距離では足りないのだと悟った。

射抜くように、絡めるように。
彼のそれは、＿＿＿＿＿＿＿＿恐れた“好意”。

( どう、しよう )

＿＿＿＿『それから、刀と言えど彼等は“異性”』
＿＿＿＿『間違いが起きないように警戒しなさい』

脳裏に蘇る、あの人の最初の気遣い。
私はもう、知っていたつもりだった。
その言葉を、意味を、ちゃんと。

だから、平等を務めた。
女である事を、極力認識させないように。
露出を控えて。
話し相手を変えて。
夜はあまり部屋から出ずに。

壊したくなかった。
人の持つその感情が、
私達を変えてしまうのは嫌だった。

やっと出来た、
私の＿＿＿＿家族なのだから。

「ありがとう、清光」

気付いてなんかやらない。
意識なんてしてやらない。
好意なんてモノに、
壊されたりなんて＿＿＿＿しない。