【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ20)

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綻ビページ20

不動行光は、寄り添うように座って動かない。
握り締めている手は、微かに震えていた。

「行光……？どうした……の…」

流れる長い髪の隙間で、
赤くなった目と視線が交差する。

その目は、皆とは違う。
酷く、
切ない色をしている。

「…んで…だよ……ぉ」

( ああ、知ってる )

＿＿＿＿不動行光は、いつも少し遠かった。

短刀達と毎日のように遊んでいても、
彼は少し遠くにいる。

直接言葉を交わすことはなかった。
彼はあまり私を受け入れてないのだと思ってた。

戸惑って、いた。

私が、じゃなく。
彼自身が。

「アンタは、女で……姫、みたいで……優しくて、温かくて、壊れそう、なのに…っ」

彼の目が私を見ていた事くらい知ってた。
彼が、不器用なのも分かってるつもりだった。

距離を詰めようとしなかった。
その勇気がなかった。

( 行光は＿＿＿＿もう、気付いてる )

その目が、その表情が、その仕草が、距離が。
戸惑うことの意味が。

「アンタは……誰だよ……っ
＿＿＿＿なんで、」

戸惑っていた。
私が、じゃなく。
彼自身が。

知らなかったからじゃなくて、

「なんで、アンタの血から、
＿＿＿＿＿＿＿＿信長公の匂いがするんだよ…ぉっ」

本当は、
よく知っていたから。

「……行光は、いい刀だね」

知っていたからこそ、
どうしていいか分からなかった。

彼も、＿＿＿＿私も。

「アンタ、アンタは…っ！信長公、なのか…！？」

「違う。私は、A」

「でも、じゃあ、…っなんで！！」

「＿＿＿＿ねぇ、約束してね」

必死に紡いできた糸でも、
いつかは解れるように。

繕った自分も、
いつかは綻んでしまう。

“ 悪魔ノ子 ”

同じ血を持つ者からも
他人からも1番言われた言葉。

それは、誰よりも似ていたから。
誰よりも、その血の匂いを濃くしていたから。

「私は、清洲A。
だけどこれは真名じゃない。

私の真名を、貴方にだけ教える。
だから、私が死ぬその時まで＿＿＿＿

この業を共に背負って、不動行光」

＿＿＿＿私には、名が無い。
＿＿＿＿だけど、皆私をこう呼んでた。

“信長の化身”

「織田。
＿＿＿＿織田、A」

どうか許して。

この手が触れることを。
この口が、貴方と触れ合う事を。

「2人だけの、秘密」

甘美な響きに混じる、猛毒を。