【刀剣】揚羽蝶の姫【乱舞】 (ページ16)

今日:11 hit、昨日:2 hit、合計:181,590 hit

噴リページ16

【薬研藤四郎】

目を、疑った。

「…お、い……なんでAが、血だらけなんだよ……っ」

慌てたような足音が聞こえたかと思えば、
目に飛び込んできたのは
大倶利伽羅の腕に収められたA。

所々に散る紅は、俺達のよく知るそれだ。

「事情は貞が主に話してる所だ」

「だから…っなんで太鼓鐘が居てAが怪我すんだ！！」

「落ち着け」

振り切れていた。
何より動揺していた。
目を閉じた姿が＿＿＿＿死人みたいに見えて。

こんなにも自分に余裕がなくなったのは、初めてだった。

( なんで、…なんで…っ )

大倶利伽羅がAを寝かせてすぐ、
その羽織を脱がせて＿＿＿＿ようやく冷静さを取り戻した。

取り戻さずにはいられなかった。

「……怪我なんて、ない、ぞ」

「それは全部返り血だ。治療するのは掌だけでいい」

「…掌？」

見れば、掌には爪が食いこんだような跡があり
そこには血が滲んでいた。
それより＿＿＿＿返り血？

「貞に絡んだ男を斬ったらしい」

「斬った…？Aが……？」

そんなこと、あるはずが無い。

彼女のいた時代に刀は無い。
そして彼女自身、剣技に触れたことは無い筈だ。
それは手を見ればわかる。

日本刀なんて初めて見た、
そう言っていた彼女が、その細い腕で、男を斬るだと？

( こいつは……どうなってんだ…. )

しかし、それ以外にこの羽織に付く血痕の説明がつかない。
もしも太鼓鐘が抜刀していたなら間違いなくAを庇う筈だから、Aに返り血が付くなんて事は無い。

＿＿＿＿即ち。

「本当に…Aが……」

「俺も見た。此奴は間違いなく、男を斬っていた」

妙に狼狽えたような表情の大倶利伽羅は、そう言ったきり部屋を出てしまった。

手の治療を終えて、その顔を眺める。
不安定な呼吸は心配だが、恐らく一種のショックによるものだろう。

頬に掛かった髪を払って、その頭を撫でる。
閉じた瞼は、開く気配がない。

「……A」

俺の大事な、人間。

「アンタがただ、…知りたい」

アンタの側にいたい。
どんな時でも＿＿＿＿＿＿＿＿何があっても。

「だから早く…目を覚ましてくれな」