彼らとの毎日【短編集】【Fischer's】

☆六月の魔法 いち【Nndaho】 ページ9

雨水が、私の足取りを重たくする。

土砂降りの、帰り道。

いつもの風景に雨音が被さるだけで、私の感覚を鈍らせる。

お気に入りの赤い傘は、私の視界を遮る。


私の余裕も奪っていく。


「あ、三上！」


私の肩はわかりやすく跳ねる。


今日もあの声。

昨日も同じ声。

どんな日だって、凛と聞こえてくる

ーーー私の大好きな声。


「今日も電車？」


傘の赤に割り込んでくる太陽みたいな笑顔。

「うん。」

私は小さく言った。

「そっか。」

彼は、今にもかき消されてしまいそうな私の声を、雨音をかき分けて見つけ出してしまう。

「今日、俺も雨で部活無いんだ。」

「そっか。」

彼と歩き出した途端、

私の足は、軽やかにステップを刻み始める。


あぁ、だめだなぁ。

どんなに嫌な雨の日でも、君と一緒ならいいかもなぁなんて思っちゃうんだ。

君の隣を歩けるなら。


傘を少し上げてみれば、素敵な横顔がのぞく。

ドキリと心臓が大きく跳ねるのを聞いてから、また傘を元に戻した。

彼も私も、ただ隣を歩く、そんな時間。

雨音が、間を埋めてくれているようだった。

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