検索窓
今日:11 hit、昨日:14 hit、合計:347,671 hit

☆大江戸 参【Silk】 ページ5

小刻みに揺れる肩をしっかりと抱きながら、俺は、思い出していた。



彼女のことを忘れたことは一度もなかった。



まだ5歳にもなっていない頃、俺は親に黙って城の外に出ていったことがある。


外の世界が見てみたくて。


だけど、小さかった俺は、人混みに呑まれ、どっちに行ったらいいのかも分からなくなって、その場にしゃがみ込んだ。

こんなことになるんだったら、出てこなきゃよかった。

今から、城に戻っても父上に怒られるだけだ。

なんて思っていた。


そんな時、彼女とはじめて出会ったのだ。



「どうしたの?」



俺の隣に、急に現れた声。

そこには、1人の女の子が立っていた。

「こんなとこにいたら、あぶないよ。」

そう言って、その子は俺の手を引いて、道の端にあるひとつの店に入っていく。

「おっかさん!」

女の子が叫ぶと、中から優しそうな女性が現れた。

「あらあら、A。お友達?」

女性の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに頷く。

俺にはわからなかった。


友達、というものが。


「少し、待っててね。」

と女性が中に入ってしまってから、俺は彼女に尋ねた。

「…ともだちとは、なんじゃ?」

すると彼女は、目を丸くしてから、笑う。


「いっしょに、てをつないだひとのこと。」


その笑顔に、俺は胸が熱くなるのを感じた。

また、女性が中から出てくる。

その女性は、小さなお盆に乗せた大福を彼女に渡した。

「そこに座って、一緒に食べなさい。」

彼女は大きく頷いて、また俺の手を引っ張っていって、指定された所に座る。

俺が立ったままでいると、彼女は自分の隣をとんとんと叩いた。

俺は、そこに座る。

「はい!」

彼女は元気に、俺に大福を渡した。

「…いいのか?」

俺が尋ねると、彼女は、

「うちのだいふく、おいしいよ!」

と自慢げに言う。


俺は、その笑顔に、心を奪われたのだ。



彼女が覚えているかどうかは知らない。



それから、今までの10年間。

城からは一切出ず、元服したら必ず彼女を探しに行くと決めていた。

彼女を、俺の正妻とするために。


はじめての、妻とするために。


「頼む、俺に着いてきてくれ。」


彼女は今、何を思っているのだろうか。


俺の胸の中にいる彼女と、ぱっと目が合った。

☆大江戸 肆【Silk】→←☆大江戸 弐 【Silk】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (136 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
392人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

バニレ - え、とにかく全部最高なんですが……//// (2019年8月14日 19時) (レス) id: a982cf7980 (このIDを非表示/違反報告)
wakame(プロフ) - ひよさん» コメント、ありがとうございます!! ほのぼのと、ふわふわと読める感じのを目指しております! これからも頑張りますね!! (2018年1月14日 19時) (レス) id: 98da65900a (このIDを非表示/違反報告)
ひよ - ほのぼのしますね(о´∀`о)これからも頑張って下さい! (2018年1月9日 17時) (レス) id: 9013a0ca57 (このIDを非表示/違反報告)
sena_earlybirs(プロフ) - ありがとうございます!wakameさんの描くお話が本当に好きなので、楽しみにしてます! (2017年8月4日 10時) (レス) id: 165c468189 (このIDを非表示/違反報告)
wakame(プロフ) - sena_earlybirsさん» なので、またチェックしてみて下さいね!! (2017年8月2日 23時) (レス) id: 98da65900a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:wakame | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年5月28日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。