☆大江戸 参【Silk】 ページ5
小刻みに揺れる肩をしっかりと抱きながら、俺は、思い出していた。
彼女のことを忘れたことは一度もなかった。
まだ5歳にもなっていない頃、俺は親に黙って城の外に出ていったことがある。
外の世界が見てみたくて。
だけど、小さかった俺は、人混みに呑まれ、どっちに行ったらいいのかも分からなくなって、その場にしゃがみ込んだ。
こんなことになるんだったら、出てこなきゃよかった。
今から、城に戻っても父上に怒られるだけだ。
なんて思っていた。
そんな時、彼女とはじめて出会ったのだ。
「どうしたの?」
俺の隣に、急に現れた声。
そこには、1人の女の子が立っていた。
「こんなとこにいたら、あぶないよ。」
そう言って、その子は俺の手を引いて、道の端にあるひとつの店に入っていく。
「おっかさん!」
女の子が叫ぶと、中から優しそうな女性が現れた。
「あらあら、A。お友達?」
女性の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに頷く。
俺にはわからなかった。
友達、というものが。
「少し、待っててね。」
と女性が中に入ってしまってから、俺は彼女に尋ねた。
「…ともだちとは、なんじゃ?」
すると彼女は、目を丸くしてから、笑う。
「いっしょに、てをつないだひとのこと。」
その笑顔に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
また、女性が中から出てくる。
その女性は、小さなお盆に乗せた大福を彼女に渡した。
「そこに座って、一緒に食べなさい。」
彼女は大きく頷いて、また俺の手を引っ張っていって、指定された所に座る。
俺が立ったままでいると、彼女は自分の隣をとんとんと叩いた。
俺は、そこに座る。
「はい!」
彼女は元気に、俺に大福を渡した。
「…いいのか?」
俺が尋ねると、彼女は、
「うちのだいふく、おいしいよ!」
と自慢げに言う。
俺は、その笑顔に、心を奪われたのだ。
彼女が覚えているかどうかは知らない。
それから、今までの10年間。
城からは一切出ず、元服したら必ず彼女を探しに行くと決めていた。
彼女を、俺の正妻とするために。
はじめての、妻とするために。
「頼む、俺に着いてきてくれ。」
彼女は今、何を思っているのだろうか。
俺の胸の中にいる彼女と、ぱっと目が合った。
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バニレ - え、とにかく全部最高なんですが……//// (2019年8月14日 19時) (レス) id: a982cf7980 (このIDを非表示/違反報告)
wakame(プロフ) - ひよさん» コメント、ありがとうございます!! ほのぼのと、ふわふわと読める感じのを目指しております! これからも頑張りますね!! (2018年1月14日 19時) (レス) id: 98da65900a (このIDを非表示/違反報告)
ひよ - ほのぼのしますね(о´∀`о)これからも頑張って下さい! (2018年1月9日 17時) (レス) id: 9013a0ca57 (このIDを非表示/違反報告)
sena_earlybirs(プロフ) - ありがとうございます!wakameさんの描くお話が本当に好きなので、楽しみにしてます! (2017年8月4日 10時) (レス) id: 165c468189 (このIDを非表示/違反報告)
wakame(プロフ) - sena_earlybirsさん» なので、またチェックしてみて下さいね!! (2017年8月2日 23時) (レス) id: 98da65900a (このIDを非表示/違反報告)
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