▼ ページ19
◢◣
「ええ。知人に強く勧められたので」
「面白いご友人ですね」
︎ ︎顔を綻ばせたその姿は牡丹のように幼さがあり、その中でも大人らしい余裕を感じ、不思議な人だと思った。
もっと話したい、と口を開こうとすると予鈴が鳴った。
「あ、残念。またお勧めの本教えてくださいね」
「勿論！何時でもいらしてください」
︎ ︎その日から、時折その生徒は来るようになった。
自分が本を紹介すると、いつも読んだ後に感想を持ってきて、次はこのような本が読みたい、とリクエストを出してくる。それが楽しくて、隙間のあった本棚の隙間に本が収まったような安心感がした。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はエーミールと言います」
「アーシェです、よろしくお願いしますエーミール先輩」
アーシェ、という名前を聞いてチーノさんがたまにぽろりと零す友人はこの人だったのだと気づき、世間は狭いなあ、とまた嬉しくなった。
✧︎
入学してまだ数日程しかたっていなかった頃、この世界の戦争はどのようなものなのか知るために図書室へ向かった。
木造の趣きがある扉を開くと、視界いっぱいに広がる本。
この中から探すのは骨が折れそうだ、と見回す。初めは戦争の書物目当てだったのだが、他にも興味深い魔法の本が沢山あり予想よりも時間がかかってしまった。
ようやく見つけた、解像度の高そうな書物を持ち司書だか担当の生徒だか分からないが目を離した隙にいなくなっていそうな儚げな男に声をかけた。
「これは貴方がお読みに？」
少し目を見開き、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
振り返ったことで制服が見え、男は生徒だということが分かった。
興味がある、と言うと男は内容のリアルさを注意喚起してきた。気をつけろ、と言うくらいなのだから、やはり思っていた通りこの本は解像度が高いのだろう。
他にもお勧めを教えてもらおう、と思った時、予鈴の音が鳴り響いた。
残念だ、と肩を落とし図書室を後にした。
＿
「何の本読んでんの？」
「戦争」
「ふーん、おもろい？」
「面白くはないかなぁ」
授業が始まる前、本を持ち歩いているため席について本を広げていると、チーノが隣に座り話しかけてきた。
いつも距離が近い気がするのはこの際もう気にしない。
「おもろないの？なんで読んでるん」
「知り合いに軍人がいるから、ちょっと気になるんだよね」
「ふぅん」
「聞いといて興味無いね？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：w579hgtvbj | 作成日時：2023年12月24日 11時
