執着は爪の先まで。 (ページ1)

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「あのな、あのな…仕事の都合でみんな韓国で暮らすことになった。」

夜7時、デザートのぶどうを食べてた。

いつも明るい父さんが重苦しい雰囲気を漂わせていて、なんだなんだと聞いてみればそう少し震えた声で言われた。

同じく兄さんもぶどうを美味しそうに頬張ってたけど、表情が固くなる。母さんは父さんの肩に手を置いて、私と兄さんを見た

母さんは知ってたのかな、

かんこく、そう小さく呟いて考える。

美味しい料理が沢山あるところ。キムチとか、チヂミとか

韓国の料理が食べれるようになるのは嬉しいけど、学校の友達と会えないのは嫌だなあ。
韓国から日本の学校に通えたりしないのかな

そう思ってるのは、私だけじゃないみたい

「俺、やだよ！韓国に行ったら友達とか、おじいちゃんとかおばあちゃんに会えなくなるし、あと…近所のおばちゃんにお菓子貰えなくなっちゃうし！」

え、兄さんお菓子貰ってたの？

…ずるい

「ごめん、ごめん…外国の働き手が足りなくて、偉い人達は残るけど、それ以外の社員はみんな外国に行かなくちゃならないんだ。新人より経験のある人が積極的に移動。あの平山さん家も台湾だって言ってたし…」

平山さん、笑うと可愛いおじちゃん。平山きららちゃんも外国に行くんだ。もう当分会えないね
たいわんはまだ勉強してないからどこか分からないけど、きっと遠いとこ。

「あ、あなた…反日とかあるじゃない？どうするの？」

「ああ…名前を変えようと思う。みんな肌は白いし、韓国人と言われても疑わないよ。苗字はキムにする」

「そう…。友里、夏海、ごめんね」

「謝らないでよ。父さんも母さんも悪い訳じゃないんだし」

さっきまでぎゃあぎゃあ泣いてた兄さんが鼻をすすりながら言った。物分かりが良いのが兄さんのいいところ

「私も、大丈夫。韓国の言葉の勉強、頑張るね」

笑顔を作りガッツポーズを決めそう言うと、父さんも母さんも笑ってくれた。

大丈夫だよ。友達は韓国でもできる

ぶっちゃけると家族以外のつながりはそこまで必要じゃないと思ってるし、友達と別れるのは寂しいって思うけど、きっと時間が解決してくれる

その日は兄さんと名前をどうするか沢山悩んで、次の日父さんに言いに行った。

あれから2ヶ月、お別れ会もして友達と泣いて、寄せ書きとか、そんなのを沢山貰った。やっぱり寂しい

名前は夏海からAに変わり、5月26日。10歳の誕生日までもうすぐ

韓国行きの船に乗り込んだ。