もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ10)

今日:9 hit、昨日:0 hit、合計:10,123 hit

悪趣味と猫。ページ10

酷い惨状だった。自国も敵国も壊滅状態で、辛うじて自国の城がまだ崩れていないくらいの差だった。周りの三国に宣戦布告したのは少しやり過ぎた、と書記長は言う。しかし私は愉快で堪らなかった。敵が強ければ強いほど面白いじゃないか。そう言えば彼はほとほと呆れたように歩みを進める。最早国境が何処かすら分からない程に瓦解していて、どこを見ても瓦礫の山だ。辛うじてまだ形を保っている敵城へと一直線に進む。子供も大人も最早形を保っていない、辺り一帯は酷い臭いだ。未だにその火は収まらずにその煙が視界を遮る。酷く苦しんだ様な顔で絶命した兵士や、頭を撃ち抜かれて死んだ兵士。果たして我々の国は拳銃を使っただろうか、と疑問に思うがまあ大した事では無いだろう。さて、この国の王はご存命か。崩れかけの城の中、何度か通った玉座の前へと歩いていく。
扉の前、この板越しに王は居る。生きていたとしても大した障害にもならない。書記長が危険だから、と私を下げて扉のノブに手をかける。慎重にノブを下げ、扉に張り付いて開ける彼の横を銃弾が走った。いつか聞いた記憶では、国王は人を殺すのを嫌がるらしいが。命の危機となればやはり銃の一つくらい撃つか、と勝手に納得を入れて一気に扉を開き突入する。遅れて書記長が怒りをその顔に浮かばせて室内に入る。
玉座に座っているのは王と呼ぶには些か若すぎる少女だった。その端に事切れた老人が転がっている。背中に刺された銀の剣が、その老人の纏っていた服装が、彼が国王でありその前に“元”と付けなければいけない証明だった。

拳銃を構えた彼女はにこり、と無邪気な笑顔を浮かべてその火器を下げる。書記長は瞬時にその拳銃を彼女に発砲しようとしたが、私はそれを制止した。

「国王は貴様か？」

「さあ、どうだろう？まあ元国王はお亡くなりになって、この国の生存者も私が殺して回ったし唯一の生き残りである私が必然的に国王になるのかな？」

「普通は人の事を聞くなら自分から、だけどお前の事は知ってるよ。敵国の大将、というか国王同然の地位。名前は知らないけど、総統って奴でしょ？そして私の憎むべき敵。」

笑顔を崩さずに彼女はそう言う。しかしその言葉には一つ疑問点があった。

「何故私の名前を知らない。国民なら新聞やラジオで一回は耳にしている筈だ。」

「それは自惚れすぎだよ。私はね、昔お前に…そう、お前にこの右肩を撃たれた。もう覚えてないかな？裏路地のナイフ遣いの事を！」