もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ28)

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本と文字と。ページ28

本と木で満たされたその空間はぴりぴりと重圧感を肌で感じる位には戦いに飢えた私に似合わない所だった。
そもそも文字を勉強する為に来たのにどれが勉強出来る本かすら分からない。文字を読めないというのは大層なデメリットだ。勉学はしていたんだろうが生憎全て忘れてしまったから一からやり直さないといけない。ふと机の上に置かれた紙が目に入った。小石を錘代わりに置いてあるそれはどうやら貸出表らしく、色々な名前や本のタイトルであろう文字が並んでいる。
ぼぉっとそれを眺めていた。よくよく見れば同じ文字が並んでいる箇所がある。この人間が長期間本を借りたのだろうか。どんな本なんだろう、と気になって真剣に眺めていたらぽん、と肩を叩かれたので反射的に腰のベルトにさした拳銃を向けてしまった。

「わ、わっ！」

彼は短い悲鳴をあげてばたり、と尻餅をつく。

「あ、ごめんなさい…つい反射的に。」

すぐに拳銃を腰に差し直して手を差し出す。彼は小さくありがとう、と言い私の手を引き立った。

「何だかお困りの様だけどどうしたの？本探しなら手伝うよ。」

そう言って兄さんはぱしぱしと軽く埃を払って私の見ていた貸出表を横目に私に微笑みかける。

「あ、えと…文字を勉強したいんです、けど。どれがどんな本なのか分からなくて。」

「文字かあ…うーん、それならこっちの本棚にあるよ。ここが国語の棚で、こっちが歴史の棚。こっちが数学、こっちが科学。まあ国語と歴史だけ頭に入ってれば何とかなると思うな、とりあえず初級から始めてみようか。」

そう丁寧な説明と共に一冊の本が私に手渡される。

「貸出表は俺が書いとくから、勉強頑張ってね。」

そう言って彼は図書室の机の後ろの椅子に腰掛ける。私は自分の手に渡った本の表紙を暫く眺めた後静かに図書室を後にした。

その日からは暇を持て余して城内をぐるぐる回ることも無くなった。自室で貰ったノートと借りた本を使って文字を勉強するのが楽しかったから。昔の記憶なのか何なのか、比較的簡単に頭に入るのは幸いだった。偶に茶化しに来る大先生をストレス発散に蹴り出して、巡回するトントンに野次を飛ばして、ゾム隊長に稽古を付けてもらって。私なりに充実した日々だった。しかし戦争へのカウントダウンは着実に進む。
彼らが来ないのはなかなかに暇なのだ。ベッドの上でごろごろしているなど以ての外、私はほとほと困り果てた。