002-ドジっちまった ページ3
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Aはおれに懐いてくれてはいる。
だが、やはり血の繋がりのない他人に引き取られているという意識が強いのか、ワガママを言ったり、駄々をこねたりしない。
それどころか家の掃除や料理などの家事を積極的に手伝ってくれている。
ガキならガキらしくしてろってのに…
段々と走るスピードが上がっていく。
A、お前とおれは…
学校の手前の信号の向かい側にAがいるのが見えた。雨でびしょ濡れになっている。
俯いているからまだおれには気づいていない。
早く青になれ。
待ちに待った信号が青に切り替わった瞬間、ロケットスタートを決めて一目散にAの所へ。
俯いて歩く彼女に傘を差し出す。
雨の感覚が消え、驚いた彼女は顔を上げた。
「お、お兄さん!?」
「一緒に帰るぞ、A」
「どうして…!」
立ち尽くすAの手を引っ張ってひとまず横断歩道を渡り切る。小さい手は、雨のせいで冷たくなっていた。…可哀想に。
横断歩道を渡りきったら手を離そうと思っていたが、こんな冷たいままにしておけない。
手を繋いだまま、家路を歩き出す。
「ごめんな、傘まだ買ってなくて。一本しかないからおれに譲ってくれたんだろ?ありがとな」
「……元々それは、お兄さんのだから……」
「でもな、A」
傘が、落ちる。
その手でAの肩を掴み、目に訴える。
容赦なく降り注ぐ雨。
「遠慮はすんな」
「…」
「なんでも言ってくれよ。おれはお前の本音が聞きたい」
「でも、それじゃお兄さんに迷惑が……」
「いいんだよ、おれとAは家族なんだから」
迷惑をかけてかけられて、助け合って。
家族ってそういうもんだろ?
すぐには無理だろうけど、少しでも伝わってほしい。
雨に紛れて頬を伝う涙をおれは見逃さなかった。
言葉の代わりに、今度は彼女を抱き締めた。
力を入れれば壊れてしまいそうなか弱い体。この小さくて傷だらけな背中に、Aはどれ程大きなモノを背負って来たのだろう。
楽にしてやりたかった。
もう大丈夫だと安心させてやりたかった。
「お兄さん、……」
「ん?」
「A達、びしょびしょだよ…!」
耳元からは鼻をすする音と息を吐いたような笑い声が聞こえた。
「わりィ、ドジっちまった」
Aにつられて、おれも笑った。
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アマシギ - 素敵すぎる…!!どの作品もとても優しさあふれるお話ですね…。応援してます!! (2022年9月23日 22時) (レス) @page44 id: 4cd718819a (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - 最っっ高です、、、素敵な作品に出会えました。本当にありがとうございます。これからも頑張ってください。応援してます! (2022年7月20日 20時) (レス) @page44 id: 70b28d3e93 (このIDを非表示/違反報告)
黒豆粉 - 泣いた…。めっちゃ素敵なお話でした…。ありがとうございました…! (2021年6月25日 19時) (レス) id: a216a85358 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ゆゆさん» わわわ、ありがとうございます…!完結してしばらく経ってもコメントを頂けて嬉しいです( ; ; )この小説では如何にしてコラさんと夢主の距離(家族としての)を縮めていくかめちゃくちゃ試行錯誤して考えたので、そう言ってもらえて嬉しいです…!ありがとうございます (2020年8月6日 17時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 初めまして!とんでとない素敵な作品に巡り会えました・・・読み終えた後、心がめちゃくちゃぽかぽかしました、最高です......(TT)特に作文のシーンなんかは感動しすぎて泣いてしまいました(笑)ぱぅちさんの小説、とても大好きです。これからも応援しております、、! (2020年7月8日 0時) (レス) id: 1a92e170c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2019年7月10日 20時