07-そんなこと ページ8
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五条悟
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笑うしかなかった。
この子の真っ直ぐさには敵わないと思った。
「……ふは、」
笑い飛ばそうとしたのに、絞り出した笑い声は情けないことに震えていた。力が抜ける。意地悪したくて質問したのに、結局こっちがダメージを受けている。
目隠しの上から額に手を当てる。
その際に触れた髪をくしゃりと握る。
……参ったなあ。
溜息と共に呟く。
「そんな、ことで好きになっちゃったの」
溢れた一言は、自分が思っているよりも大分優しい声色になった。
彼女を特別扱いしたつもりはなかった。
ただ、僕は他人よりも何でもできるから。
スマホをいじっていても、自然と生徒たちの会話は耳に入ってきて。
それをたまたま覚えていたから、気まぐれでAにアポロを渡して。
記憶力が良かったって、それだけの話なのだ。
でもAはそれを美談のように語る。
恋に落ちた理由だと語る。
胸に燻る火種は単なる罪悪感か、それとも。
「そんなこと、じゃないですよ。私にとっては。すごく嬉しかったですし」
Aは首を傾けて笑う。
「でも、それをそんなことって思える五条先生は、やっぱり素敵だと思う」
紅い夕陽の光に照らされたAの笑顔は、一瞬息を忘れてしまう程に綺麗で。
まるで生き物のように心臓が暴れた。
今までこんなにも純粋な好意を向けられたことがあっただろうか。
透明すぎて、美し過ぎて、恐怖さえ覚える。
頭の奥から警鐘が鳴る。僕のような大人が、真っ白な彼女に触れてはいけないと。
「あ、私今から真希と野薔薇ちゃんと女子会するからもう行かなきゃなんだ!先生またね!」
「……うん、おつかれサマンサー」
スカートを揺らして廊下を駆けていく彼女の背中を見送る。
ふう、と溜息をついて壁にもたれて天井を仰ぐ。
「……若いって怖いな」
眩し過ぎて、裸眼じゃきっと直視できなかった。
目隠しがあってよかった。
Aは生徒だ。
これからの呪術界を担う戦力の1人。
生徒である限り、僕が気持ちに応えることはない。
だけど。
「でも、それをそんなことって思える五条先生は、やっぱり素敵だと思う」
あんな熱烈な台詞をアラサーの胸に突き刺しといて自分だけ忘れていくっていうのは、残酷な話だと思う。
言い逃されたこっちの身にもなれよ。
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ぱぅち(プロフ) - レモン茶さん» こちらこそいつもあたたかいコメントありがとうございました!😭 レモン茶さんからコメント頂ける度に嬉しかったです!!これからも頑張ります!!💪 (2021年10月25日 22時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
レモン茶(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後まで本当に素敵なお話でした!また次回作があればまた読みたいです!ぱうちさん本当にお疲れ様でした! (2021年10月21日 20時) (レス) @page34 id: 7311114e12 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - さざんかさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭 こちらこそ素敵なコメント頂けて本当に嬉しいです!私にとっても忘れられないお話しになりました✨ (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ナハマヤラさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭更新が遅すぎた中でも最後までお付き合い頂いた読者様には本当に感謝でいっぱいです…!これからも頑張ります!💪 (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 白米さん» 白米さん!こちらこそ最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!!😭 甘くない話を書いていると、読者様に楽しんでもらえてるかな…と不安になるのですが、そんな中でも白米さんにあたたかいコメントを頂けて安心してました笑ありがとうございました! (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年5月30日 21時