05-幸せな1人と時間を止めたい1人 ページ6
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五条先生のどんなところが好きかと聞かれれば、すぐには答えられない。色々ありすぎて、考えがまとまらないんだ。
でも、五条先生の声だって、私が好きなところの一部だったわけで。
それを忘れてしまったというのは、やっぱり悲しい。
好きな人を好きな理由がなくなるだけでなく、彼自身のことさえ忘れていくのだから。
翌朝、学校が始まる前に五条先生は私の部屋に訪れてきた。ノックをしながら扉の外から声を掛けられた時は相変わらず誰かわからなかったけど、ドアを見て姿を確認した途端に「あ、五条先生か」と思い出した。
その呟きが聞こえたのか、五条先生は唇を結んだ後、ニッといつものように薄く口角を上げた。
まだ忘れたのは声だけみたいだ。
呪いの進行はそんなに早いわけではないらしい。
扉を開けたまま「おはようございます。どうしたんですか?」と首を傾げれば、大きな手が頭に伸びてきた。
「ちょっと、顔を見たかっただけだよ」
まるで恋人を相手にするような甘い声に、不可抗力で胸がキュンとしてしまう。いや、これは仕方ない。こんな事言われたら誰だって自惚れそうになるに決まってる。
多分、いや絶対に顔赤くなってる。
「……なんでですか、」
「さあ?なんでだろうね」
私の頭を撫でるその手つきは、背筋がそわそわするくらいに優しくて、あたたかくて。
胸が締め付けられるほど、この温もりが愛おしい。
同級生の皆は「悟だけはやめとけ」なんて言ってくるけど。
皆は五条先生の手がこんなに優しいってこと、知らないのかな。もし知らないのだとしたら。
私だけが先生の良いところを知ってるって思うと、すごい優越感。
「……へへっ」
「何笑ってるのかなー?」
「なんでもなーい」
不謹慎すぎるかもだけど、朝から五条先生が会いに来てくれるのが嬉しい。触れてくれるのが嬉しい。たったこれだけで私は幸せになれる。
束の間の幸せを今だけは噛み締めておこう。
きっとそう遠くない未来には、全て忘れてしまうのだから。
五条先生、
先生が好きだからこそ、ちゃんと忘れるよ。
「じゃ、授業に遅れないようにね」
「先生こそ、微妙な遅刻しちゃダメだよ」
「僕は最強だからいいの」
「どんな理屈ですか」
いつか失われてしまうこの幸せに、恋をしている。
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ぱぅち(プロフ) - レモン茶さん» こちらこそいつもあたたかいコメントありがとうございました!😭 レモン茶さんからコメント頂ける度に嬉しかったです!!これからも頑張ります!!💪 (2021年10月25日 22時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
レモン茶(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後まで本当に素敵なお話でした!また次回作があればまた読みたいです!ぱうちさん本当にお疲れ様でした! (2021年10月21日 20時) (レス) @page34 id: 7311114e12 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - さざんかさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭 こちらこそ素敵なコメント頂けて本当に嬉しいです!私にとっても忘れられないお話しになりました✨ (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ナハマヤラさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭更新が遅すぎた中でも最後までお付き合い頂いた読者様には本当に感謝でいっぱいです…!これからも頑張ります!💪 (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 白米さん» 白米さん!こちらこそ最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!!😭 甘くない話を書いていると、読者様に楽しんでもらえてるかな…と不安になるのですが、そんな中でも白米さんにあたたかいコメントを頂けて安心してました笑ありがとうございました! (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年5月30日 21時