26-終わりの鐘が鳴る ページ27
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五条悟
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「どうせ忘れちゃうのに、今がすごく幸せなの」
そう言って笑うAは、言葉通り心底幸せそうで。
穏やかに吹く潮風に靡く髪に、空を見上げたり、海を見つめたりする横顔。
自分の眼に映る全てが皮肉な程綺麗だと思った。
綺麗は永遠に続かない。
いずれ朽ちていく。
今は手を伸ばせば届く距離にいるのに、もうすぐ遠く離れてしまう。
どうして、とヤキモキして唇を結ぶ。
こんな笑顔を見せてくれるのに、Aには僕を忘れるという選択肢しかない。
ずっと僕を忘れる前提で日々を過ごしている。
忘れたくないとさえ思えば、こんな悪夢から抜け出せるというのに。
どうして、どうして、どうして。
…
流星群を見上げていた横顔が不意にこっちを向く。
星よりも眩い笑顔で「綺麗だね」と言う。
体温が上がって、そしてすぐに下がる。
頭の中でぐるぐる考え続けて、唐突に気づいてしまった。
______僕のせいだ。
「一晩寝たら忘れちゃえばいいのにね。僕のことが好きなんて、そんな感情」
僕が、あんな事を言ったからだ。
それは彼女の中にまるで呪いのように存在し続けて。
こっちが言ったことを、忠実に守ろうとしてくれていただけなんだ。
その事実に気づいた時、体温が下がっていくのを感じた。
はじまりは、自分のせいだったのだ。
「……先生、……なんかねむくなってきちゃった」
どのくらいの時間が経ったのだろう。
Aがやや幼い声で言う。
相当眠たいのか、目を擦っている。
夜だし、今日は普通に学校もあったし、……泣かせてしまったし、その後は色々連れ回したし、疲れたのだろう。
華奢な肩を引き寄せて彼女がこっちに寄りかかれるようにする。
明日、Aは僕を覚えていない。
きっとアポロをあげても思い出してくれないだろう。
第六感がそう告げていた。
Aの耳元で囁く。
「いいよ、寝ちゃいな」
「ん…」
______
「……おやすみ、A」
本音を押し殺して先生面して言えば、Aはゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
それは彼女との思い出が失われる瞬間だった。
腕の中にいるAを、そっと抱き締める。
「……好きだよ」
その声は波に掻き消された。
それでも、諦めたくはないと、
忘れたならまた惚れさせればいいと、
この時は思っていた。
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ぱぅち(プロフ) - レモン茶さん» こちらこそいつもあたたかいコメントありがとうございました!😭 レモン茶さんからコメント頂ける度に嬉しかったです!!これからも頑張ります!!💪 (2021年10月25日 22時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
レモン茶(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後まで本当に素敵なお話でした!また次回作があればまた読みたいです!ぱうちさん本当にお疲れ様でした! (2021年10月21日 20時) (レス) @page34 id: 7311114e12 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - さざんかさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭 こちらこそ素敵なコメント頂けて本当に嬉しいです!私にとっても忘れられないお話しになりました✨ (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ナハマヤラさん» 最後までお読みくださりありがとうございました!😭更新が遅すぎた中でも最後までお付き合い頂いた読者様には本当に感謝でいっぱいです…!これからも頑張ります!💪 (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 白米さん» 白米さん!こちらこそ最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!!😭 甘くない話を書いていると、読者様に楽しんでもらえてるかな…と不安になるのですが、そんな中でも白米さんにあたたかいコメントを頂けて安心してました笑ありがとうございました! (2021年10月21日 17時) (レス) id: 50c1a80a5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年5月30日 21時