44-賭け ページ44
.
「故郷に着くまでの間、私をこの船に置いてくださいませんか！」
第一印象で変な奴だとは思っていた。
なんの特技もない平凡な女が自ら海賊船に乗り込んできたのだから。
スパイか何かだと疑うのは当然だった。
機嫌取りかってくらいにいつもヘラヘラ笑ってる反面、自分の方は踏み込ませすぎないよう適度な距離を取る。
そんな不安定な奴だったからこそ、興味を持ってしまったのかもしれない。
「……早朝には島に着くらしい」
「！……そうなんですね」
「だから、まあ……なんだ、早めに荷物をまとめとけ。あまり時間かからないだろうが」
「はい」
返事をする声がやけに寂しげに聞こえるのは気のせいなのか。いや、さっき扉を開けた時よりも元気がないのは明白だ。だから、Aもおれ達との別れに何らかの感情を抱いているのだろう。
「では…」と会釈して扉を閉めようとするAに、「少し話がある」と引き止める。
おれはどこまで踏み込めるようになった？
引かれた線を越えても許される？
「……わかりました」
立ち話もなんなので、と招かれるままに殺風景な部屋に入って、2人並んでベットに腰掛けた。
静かな密室。外で馬鹿騒ぎするクルーの声も聞こえない。しばらくお互いの息の音だけが響いた。
何も話さなくたって、Aと過ごす時間は心地の良いものだった。
「…………あの、話って」
隣で掠れるほどの小さな声で呟く。
こんな息のような声でもこの部屋ではしっかりと耳に届くのだ。
Aの方を見ず、前を向いたまま問う。
「……少しの間、旅をしてどう思った」
「えっと……」
海賊の仲間として旅をしてみて、
未知の無人島に上陸して、
栄えた繁華街を散策して、……どう思ったのか。
賭けてみたかった。
もし、ここで好意的な答えが貰えたなら、
このままクルーになってくれるのではないかと。
1%にも満たない可能性に賭けてみた。
おれの葛藤も露知らず、能天気に笑う気配がした。
「勉強になりました！」
楽しかったとも怖かったとも、安易な感想は並べず、そう言い切った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 798人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱぅち(プロフ) - kiさん» わわ、ありがとうございます…！コメント頂けて本当に嬉しいです(^ ^)続編ではどんどん種明かしして参りますので…笑 続編でもよろしくお願い致します…（ ; ; ） (2020年4月5日 11時) (
レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
ki(プロフ) - とても良くて思わず、初めて感想を書いてみようと思うほどでした。最後のシーンに驚きすぎて続編が楽しみです！無理せずに頑張ってください。ワクワクしながら待っています！ (2020年4月1日 3時) (レス) id: d59bd8fff6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 紗さん» あたたかいお言葉ありがとうございます…！（ ; ; ）まだまだ未熟ですが、文章を褒めてくださると本当に嬉しいです！続編も頑張ります！ (2020年2月4日 21時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
紗(プロフ) - 第一章おつかれさまでした！！表現の仕方とか素敵でとても好きです！更新ゆっくりでいいので、楽しみに待ってます！ (2020年2月1日 18時) (レス) id: d2cf8ed97e (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 氷屋さん» コメントありがとうございます！ほんとに些細な描写が繋がっていったりするので、気がついてもらえるととても嬉しいです(^^) これからも不器用なローさんを描いていこうと思います！頑張ります！ (2020年1月22日 22時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぅち
| 作成日時：2019年9月28日 18時
