36-ふとした瞬間に ページ36
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本屋に寄ってはみたものの、興味を惹かれる本は特に無く、手ぶらなまま外へ出た。
ちなみにおれが医学書を漁っている間、Aも隣でてきとうな医学書と睨めっこしていた。
ろくに読めも理解もできないくせにどうにか解読しようとしている一生懸命姿がなんとなく気になって。彼女のその様子の方が本よりも面白くて。
本を読むフリをしてAを横目で見て小さく笑っていたなんて、きっと気がつきもしなかっただろう。
Aの新たな一面が明らかになった。
意外に真面目なのだ。
馬鹿みたいにヘラヘラしていた第一印象が覆るほど。
「ローさんって医学書しか読まないんですか?」
Aが横から話題を振った。
「まァ、基本的にはな」
「小説とかは?」
「読まないことはない。だが、医学書の方が読む機会は多い」
「へ〜、そうなんですね」
Aは自分を指差し、「私、結構小説読むんですよ」と誇らしげに笑う。「お前が?」と信じていない低いトーンで返すと、「そうですよ!」と食い気味に言った。
「家にたくさん本があってですね、暇な時に読んだりして」
「どうせくだらねェ恋愛ものばかりだろ」
「恋愛ものも素敵ですけど、そればかりじゃありませんよ!冒険譚とかも好きです」
例えば、とその後に彼女が例として挙げた本の名は驚くことにおれも知っていて、特に内容が気に入っているものだった。その本は世界的にはマイナーな部類だから、よく知っているなと感心した。
それから近くのカフェに入って、その本の感想や、お互いに好きな本について語り合った。おれはあまり口数が多い方ではないから、ほとんどAの話を聞く形にはなったが。
注文したココアがすっかり冷めるまで、Aは目を輝かせながら夢中で話してくれた。
彼女の本好きの肩書きは相当年季がこもったものだ。
おれは無糖の珈琲を啜りながら、目の前でマシンガントークをするAに時折相槌を打った。
ほぼAが一方的に喋っているだけ。
でも退屈はしなかった。
耳に届く声が心地良かった。
空になったカップを置く。
頬杖をつき、彼女の話を聞いていると、自然と口角が上がる。
認めたくない。
……でも。
ふとした瞬間に、思ってしまうのだ。
ああ、好きだなと。
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ぱぅち(プロフ) - kiさん» わわ、ありがとうございます…!コメント頂けて本当に嬉しいです(^ ^)続編ではどんどん種明かしして参りますので…笑 続編でもよろしくお願い致します…( ; ; ) (2020年4月5日 11時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
ki(プロフ) - とても良くて思わず、初めて感想を書いてみようと思うほどでした。最後のシーンに驚きすぎて続編が楽しみです!無理せずに頑張ってください。ワクワクしながら待っています! (2020年4月1日 3時) (レス) id: d59bd8fff6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 紗さん» あたたかいお言葉ありがとうございます…!( ; ; )まだまだ未熟ですが、文章を褒めてくださると本当に嬉しいです!続編も頑張ります! (2020年2月4日 21時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
紗(プロフ) - 第一章おつかれさまでした!!表現の仕方とか素敵でとても好きです!更新ゆっくりでいいので、楽しみに待ってます! (2020年2月1日 18時) (レス) id: d2cf8ed97e (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 氷屋さん» コメントありがとうございます!ほんとに些細な描写が繋がっていったりするので、気がついてもらえるととても嬉しいです(^^) これからも不器用なローさんを描いていこうと思います!頑張ります! (2020年1月22日 22時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2019年9月28日 18時