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17-泣いていたから ページ17

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しんと部屋が静かな中で悟くんの声は凛と響いた。


惚れ薬は飲んでいない……?

彼は確かにそう言った。
聞き間違いなんかじゃない。
私の耳がおかしくなったわけでもない。

今この場には私と悟くんしかいないし、スマホのバイブ音だって惚れ薬は飲んでいないなんて鳴らない。



じゃあ、嘘だったんだ。
惚れ薬を飲んだ演技をしていただけ。

高ぶりそうな感情を抑え込み、極めて冷静に「どうして、嘘吐いたの」と責めないように尋ねた。


悟くんは観念したように額に手を当てつつ、ぽすっとソファの背もたれに寄りかかって天井を仰いだ。





「……あの日、君が泣いていたから」

「あの日……?」

「1週間くらい前かな、僕がこのソファでうたた寝していた時、隣で君泣いてたでしょ」

「!起きて、たの?」

「途中からね。気づいた時には泣いてた」





まだ記憶に新しいあの日のことが、脳裏に鮮明に蘇ってくる。





__________
_____
__





あの日も悟くんは家に来ていて、ソファに座ってテレビ番組を鑑賞していた。私はその番組に特に興味が湧かなかった為、一緒に観ることはなく、夕飯の片付けや洗濯等の家事をこなして時間を潰していた。

1時間程経つと、ソファの方から寝息が聞こえてきて。まあまだ終電まで時間あるし、仕事で疲れてるんだろうと思ってそのままもう少し寝かせてあげることにした。




ほんの、出来心だった。

悟くんが寝ているから、寝ているなら、ちょっとくらい触れてみてもいいんじゃないかって。

そっと彼の隣に腰を下ろし、恐る恐る腕を伸ばして、軽く手を握ってみた。ごつごつした手に、暖かな体温。

その感触に胸が満たされると同時に、どうしようもない空虚感を感じた。


____どうして、たったこれだけのことが、彼が起きている間にできないんだ。

少し手を伸ばせば簡単に届くのに、寝ている時でしか触れられない。


1番近くにいるのに彼が起きている時には手さえ握れない私が、酷く惨めで。





「うっ……、くっ」





彼との心の距離の遠さを痛感させられて、今まで堪えていたものが散らばった。

それでも悟くんの手を軽く握ることしかできず、声を押し殺して、泣いた。






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ももか(プロフ) - 自分に引くほど、めっちゃニヤニヤしながら読んでました……最高すぎました!!これからも頑張ってください!!!!!! (2021年2月21日 20時) (レス) id: 962a75c0d9 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - あおいさん» 文章褒められるとめちゃくちゃ嬉しいですー!( ; ; )こちらこそ、お読みくださり本当にありがとうございました!! (2021年2月10日 17時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - 語彙力の塊すぎて…素晴らしい作品をありがとうございました! (2021年2月8日 0時) (レス) id: c6e7ce5294 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - #ゆー@金欠民族さん» めっっちゃ面白かったなんて光栄です…(^^) 暖かいコメント嬉しいです!最後までお読みくださりありがとうございました! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 輪廻@サブ垢なのだー!さん» 完結後もお会いできて嬉しいですー!( ; ; )暖かいお言葉を貰えて本当に嬉しかったです…!今次の作品を考えているところです。最後までお読みくださりありがとうございました! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年1月26日 17時

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