08-動揺と涙 ページ8
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「……なーんちゃって♡」
私を包んでいた温もりが急に消えた思えば、体を離した悟くんはてへっとわざとらしく可愛こぶって笑う。
え、と呆気に取られつつ涙目のまま見上げる。
「まーまー、今のは酔っ払いの戯言だと思ってさ、綺麗すっぱり忘れちゃってよ」
「酔っ払ってるの?」
「同じようなもんじゃん」
彼はどうしてそんなに私を傷つけるのが上手いんだろう。
…
流石に我慢の限界だった。
勝手に惚れ薬飲んで、好きだって言って、
挙句には忘れろなんて。
自分勝手にも程がある。
私がどれだけ振り回されているのかも知らないで。
怒りで握る拳が震え始める。
「……悟くん、」
「なに?」
「もう家には来ないで」
「……理由は?」
「こんなのよくないよ、お互いに」
恋人にはなれない。
親友でも、友達ですらない。
そんな私達が一緒にいる意味ってある?
意味がないのなら、辛いだけなら、
いい加減終わらせた方がいい。
……始まってすらないけれど。
「え〜。でも僕、惚れ薬飲んじゃってるからさあ、Aに会いたくなっちゃうんだよねぇ」
「じゃあ鍵返して」
「ヤダ」
「返して」
「イ・ヤ」
「返して」
「無理」
「お願いだから、返してっ……!」
「、…」
縋り付くように懇願すれば、悟くんは超不本意そうに、渋々ポケットから合鍵を取り出した。
これで解決、と安堵したのも束の間。
合鍵が視界に入った瞬間、息をするのを忘れた。
正確に言えば、合鍵についているストラップに驚いたのだ。
「これって……」
「…………じゃ、僕帰るから」
悟くんは私の手に鍵を握らせると、すぐに家を出て行った。
扉が閉まる音がして、やっと時間が動き始める。
______どうして?
手の中の鍵を握り締める。
目からついに零れ落ちた涙が頬を伝って、フローリングへと吸い込まれていく。
この、……このストラップは、
昔、悟くんの誕生日に渡したものだ。
ネタで敢えて可愛らしいクマのストラップをあげたのだった。
合鍵を渡すよりもずっと前にあげたものだったのに。
これが何を意味するのか、
わかるようなわからないような。
合鍵とストラップを握り締めて、
私はもう泣くしかなかった。
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ももか(プロフ) - 自分に引くほど、めっちゃニヤニヤしながら読んでました……最高すぎました!!これからも頑張ってください!!!!!! (2021年2月21日 20時) (レス) id: 962a75c0d9 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - あおいさん» 文章褒められるとめちゃくちゃ嬉しいですー!( ; ; )こちらこそ、お読みくださり本当にありがとうございました!! (2021年2月10日 17時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - 語彙力の塊すぎて…素晴らしい作品をありがとうございました! (2021年2月8日 0時) (レス) id: c6e7ce5294 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - #ゆー@金欠民族さん» めっっちゃ面白かったなんて光栄です…(^^) 暖かいコメント嬉しいです!最後までお読みくださりありがとうございました! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 輪廻@サブ垢なのだー!さん» 完結後もお会いできて嬉しいですー!( ; ; )暖かいお言葉を貰えて本当に嬉しかったです…!今次の作品を考えているところです。最後までお読みくださりありがとうございました! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 4a1d1da0e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年1月26日 17時