05-苦くて甘い ページ5
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「……あ、私は船番なんで」
「へェ」
聞いてきたくせに興味無さげな返事をする。
「私が船を見張ってるので、船長も久し振りの島を堪能してきてください！」
静けさを吹き飛ばすように声のトーンを上げた。
船長は顎を手に当てて考え込む素振りを見せる。
そして考えが完結したのか、腕を組んだ。
「……いや、いい」
「え。でも本とか色々、買いたいものとかあるんじゃないですか？」
「珈琲が飲みてェ」
「なら、どこかカフェにでも……」
「お前のがいい」
「…」
「食堂に来い」
私の返事も聞かずに、船長は長い足で歩いていく。
おそらく行き先は食堂。私に拒否権はない。海賊の世界では、船長の命令は絶対だから。
だから私は船長が待っている食堂に向かうしかなかった。
私は珈琲を淹れるのが上手いわけでもない。
この役割が適任なのは、他にいただろうに。
どうして、なんて考えるのは野暮だ。
私はその答えを知ってしまっている。
食堂に着くと、既に船長は腕ではなく今度は足を組んで座って待っていた。「遅ェ」と不服そうな彼に「すみません」と謝って、すぐに珈琲を淹れる。
船長を長く待たせるわけにはいかない。
一秒でも早く、と珈琲の入れたカップを届ける。
「どうぞ」
「あァ」
流れで船長の向かい側に座る。
船長は無糖が好みだ。砂糖もミルクも何も入れずにまだ湯気の漂う珈琲を啜る。美味しいとか不味いとか、そんな感想も言わずに。
私より珈琲を淹れるのが上手な人はたくさんいる。
それでも、船長はいつも私を指名するのだ。
そして、一口飲んで僅かに口角を上げる。
この満足気な表情を見ると、胸がいっぱいになる。
「A」
惚れ惚れするほどの魅力的な声で私の名を呼ぶ。
これだけで心がくすぐったくなる。
気持ちが彼に傾きそうになる。
「はい」
一言返事をするのが精一杯だった。
珈琲のカップを置き、数秒間見つめ合う。
苦い香りが鼻を通り抜けていく。
船長はサッと顔を背け、頬杖をつく。
そして息を吐いたような小さな声で言った。
「…………夜、どっか行かねェか」
まさかのお誘いに目を丸くする。
苦い香りを押しのけて、漂う甘い雰囲気。
隠してるようだけど、船長の頬が微かに紅潮してるのが見えた。
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涼野紫乃(プロフ) - 完結おめでとうございます！作者様のローオチの作品は他にも読ませていただいてますが毎回話の構成、終わり方が最高で泣かされてしまいます。新作も絶対読みます！これからも頑張ってくださいm(_ _)m (2020年8月16日 8時) (
レス) id: 5f142ceaa5 (このIDを非表示/違反報告)
てい。(プロフ) - 完結ご苦労さまです！更新まだかなと楽しみに思えるほどこの小説が好きでした！1番が気になっています、気になりすぎて早く読みたいくらいですが…これからも頑張ってください！応援してます (2019年9月24日 18時) (レス) id: 6af5281e1b (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 皆様ご協力頂きありがとうございました…！一人一人にきちんとお返事したいところですが、有り難いことに多くの方にご意見をもらえて…泣 でもコメントや感想はすべて読ませていただきました！本当に温かいお言葉をもらえて嬉しいです！今後もよろしくお願いします…！ (2019年9月24日 17時) (レス) id: fbe06363c9 (このIDを非表示/違反報告)
ぴろぴろ(プロフ) - 完結お疲れ様です★遅くなりましたが、3番が読んでみたいです(*´∀｀) (2019年9月24日 11時) (レス) id: 5ce8d72b22 (このIDを非表示/違反報告)
るな(プロフ) - 2.3どちらも捨てがたいです(ﾟ´ω｀ﾟ)！完結お疲れ様でした！ (2019年9月24日 1時) (レス) id: e1ea64eec7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぱぅち
| 作成日時：2019年9月8日 18時
