11-矛盾 ページ11
.
船長と離れると冷静になれたけど、今はもう頭が真っ白で顔が熱い。
彼のパーカーを握る手が微かに震える。
胸が騒いで苦しくて、顔も上げられないのに。
……離れたくない矛盾。
花火が上がっていた中心街から離れ、人気のない港にようやく辿り着いた。このまま港に沿って歩いていくと、目立たないように停泊した潜水艦がある。
「船長、本持ってくれてありがとうございました」
「あァ」
パーカーから手を離し、その手で本を受け取る。
せめてここからは私が持って行こう。
荷物持ちとして。
すっかり静かになった空の下を2人で並んで歩く。
「そういえば、ここのログってどれくらいで溜まるんですか？」
「1日ってペンギンが言ってたな」
「あ、じゃあもう溜まるんですね」
「次の島はどんなところかなあ」と期待を膨らませていると、船長はくくっと喉を鳴らして笑った。
「物凄い変わりようだな。おれが最初にお前を誘った時は頑なに拒否していたというのに」
「だ、だって……、海賊は悪い奴だー！って教え込まれて育ったものですから！当然です」
「まァそれが普通か」
海に出る気は毛頭なかった。
生まれ育ったあの島で、一生母と暮らしていくつもりだった。
それが、彼に出会って変わってしまった。
「でも、今は後悔してませんよ。貴方からの条件を承諾して、この船に乗ったことに」
「……そりゃ結構」
彼は船長であり、恩人でもある。
だから仁義を通すため、この船に乗り込んだ。
恩人のためなら命を賭ける覚悟もある。
船長は「後悔してたって連れてくからな」と海賊らしい強気な発言をする。
「それは誘拐になっちゃいますよ」
「お前だって似たようなことやってんだろ」
「私は誘拐じゃない！窃盗です！」
「同じだろ」
ふと外に視線を向ければ、堂々と見知らぬ船が停まっていた。見たことない海賊旗が潮風を受けてのんびりと揺れている。
この島に海軍がいること気づいてないのだろうか。
ご愁傷様です、と心の中で手を合わせる。
そうして帰る前にやるべき仕事を見つけた。
突然押し黙った私の視線の先を辿った船長は、海賊船を見つけてニヤリと口角を上げる。
「船長、すみませんが本を持っといて頂けますか」
「あァ。……やってこいよ、誘拐」
「だから誘拐じゃないですって！窃盗ですから！」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1887人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涼野紫乃(プロフ) - 完結おめでとうございます！作者様のローオチの作品は他にも読ませていただいてますが毎回話の構成、終わり方が最高で泣かされてしまいます。新作も絶対読みます！これからも頑張ってくださいm(_ _)m (2020年8月16日 8時) (
レス) id: 5f142ceaa5 (このIDを非表示/違反報告)
てい。(プロフ) - 完結ご苦労さまです！更新まだかなと楽しみに思えるほどこの小説が好きでした！1番が気になっています、気になりすぎて早く読みたいくらいですが…これからも頑張ってください！応援してます (2019年9月24日 18時) (レス) id: 6af5281e1b (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 皆様ご協力頂きありがとうございました…！一人一人にきちんとお返事したいところですが、有り難いことに多くの方にご意見をもらえて…泣 でもコメントや感想はすべて読ませていただきました！本当に温かいお言葉をもらえて嬉しいです！今後もよろしくお願いします…！ (2019年9月24日 17時) (レス) id: fbe06363c9 (このIDを非表示/違反報告)
ぴろぴろ(プロフ) - 完結お疲れ様です★遅くなりましたが、3番が読んでみたいです(*´∀｀) (2019年9月24日 11時) (レス) id: 5ce8d72b22 (このIDを非表示/違反報告)
るな(プロフ) - 2.3どちらも捨てがたいです(ﾟ´ω｀ﾟ)！完結お疲れ様でした！ (2019年9月24日 1時) (レス) id: e1ea64eec7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぅち
| 作成日時：2019年9月8日 18時
