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泣かないで(1) リゾット・ネエロ ページ22

皆が寝てしまった夜中。

彼は時折、一人立ち尽くして項垂れている時がある。

そして静かに溜め息をついて肩を落とすのだ。

今日も開けっ放し寝室のドアからそれが見えた。


「リゾット?」

「…Aか」


人の気配に敏感なリゾットなのに、私が声をかけるまで気がつかなかった。

よっぽど深く考え事をしていたのだろうか。


「どうした?眠れないのか」

「リーダーこそ」


いつもの頭巾もコートも脱いで、彼は就寝時のシャツとラフなズボン姿だ。

すぐにでも寝られる格好なのに…。


「何かあったの?」


普段から眠りが浅く睡眠時間の短いリゾットは、ここ最近は特に顔色が悪い。

心配になってそう尋ねた。

リゾットはしばし言葉に迷うような、詰まるような沈黙の後、


「何もない」


と首を横に振った。

その低い声が随分弱気に聞こえる。

まるで迷子になって今にも泣き出してしまいそうな、小さな子供のような声に聞こえてしまった。


私はめいっぱい手を伸ばし、そっとその銀の髪に触れた。


「泣かないで、リゾット」

「A…?」


マンマのように。もしくは教会のシスターのように。

優しく慈愛の心を持ってその言葉を囁く。

慰めたかったのだけど、こんな安っぽい在り来りな言葉しか思い浮かばない自分を恨んだ。

それでも何もないよりマシだと、髪を梳きながら繰り返す。


「泣かないで、泣かないで」


俺は泣いてなんかいない…と、困惑の声が降ってくるが関係ない。

私はただ呪文のように、うわ言のように繰り返す。

止まらないのだ。なぜか。


「泣かな、いで…泣か、ない、で……っ」


そう言ってるうちに唇が震えて、視界がぼやけ始める。

くしゃ、と撫でていた銀糸の髪を弱く掴み俯く。

駄目、泣かないで。

この優しい人の前で涙なんか零さないで。

私の意志に反して、涙は重力にだけ従い床に落ちていく。

わかりやすすぎる程にリゾットの身体が強張るのがわかった。

でもすぐ私を引き寄せ頭を抱え込む。

大きくて逞しい手が私の真似をして髪を撫でる。


「泣かなくていい、A」


先程の弱々しさは身を潜め、優しい声が私を慰める。

彼を慰めようとしていたのにこれじゃあ駄目ではないか。

どんなに唇を噛んでも涙は止まらない。

お願い、泣かないで。

先程この言葉が止まらなかったのは、弱い自分自身に言い聞かせていたからかもしれない。

泣かないで(2) リゾット・ネエロ→←灰色の世界で 吉良吉影



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ウィルゴ・パルテノス - リクでダービー兄弟と一緒に日本の駄菓子を食べてみたをお願いします (2022年8月16日 7時) (レス) id: b628f3ea92 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - 15さん» コメントありがとうございます。浮上もできない半端な者ですがもう少しだけ頑張るつもりです。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - みかんじゅうすさん» 更新はするつもりです。ですが、度重なる体調不良と将来の進路に関する活動を含む学生生活が忙しくてなかなか趣味としてPCに向かえない日々が続いております。決して投げ出したわけではございません。誠に申し訳ございません。もうしばしお待ちください。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
みかんじゅうす - もう更新されないんですか? (2020年9月16日 23時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)
15 - 神よ! (2020年8月15日 22時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヒヨコダイル | 作成日時:2018年9月17日 21時

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