【文アル】文豪のみぞ知る文豪 (ページ42)

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#４２ページ42

うっすらと瞼を開ける。最悪な、最期の夢を見ていた。

「起きた？…その様子だと、やっぱり観たんだね、死ぬ間際の記憶」

「……賢治、さん」

「ボクらは第二の生を得ている異物だ。前の生の記憶も、眠れば不定期に蘇る」

凪いだ眼差しで私の頭を撫でる賢治さん。知っていたなら、はじめから教えてくれていればよかったのに。不満に思ったが言うのは憚られ、結局悩んだ末に夢の話をする事にした

「……私の死因はご存知で？」

「うん。織田先生から聞いたよ。強盗に殺された上に金品を奪われたんだってね」

「それ、全部私が作った物語で、本当は自害だって言ったら、どうします」

賢治さんの顔が驚き一色になる。まさか、と小さく零した彼はぴたりと撫でる手を止めてしまって物足りなさを憶えた。

「……元々、Aはボクと出会っていなければ四十歳になるずっと前に死んでいただろうからね。よく生きたんじゃないかな。それに、先に死んじゃったボクがとやかく言える立場じゃないよ」

「死のうと思っていたのに、初対面の賢治さんに"死ぬ前に、君も何か書いてみたらどうかな。きっとその気持ちも晴れるよ"なんて言われたのは驚きましたよ」

「元々親同士が関わりがあって、たまに顔をあわせる程度だったけどさ、Aがあまりにも可哀想に思ったから。あの時は君に同情してしまったよ」

「それ程、私は酷い顔をしてたんだろうね」

「うん。一概に絶望と表現出来ない、どんな物書きの表現も合致しない顔だったよ」

くすくすと、あの時を思い出して二人して笑いあう。

ゆるい空気が流れるこの空間が心地いい。賢治さんは私の深層意識すら理解してくれているし、私も彼を理解している。

「私、賢治さんとなら結婚してもよかったなぁ」

「Aとならいい家庭を築けたと思うけど、潔癖の君が？」

「潔癖じゃないですって。まぁ夜の相手は別の人に代わってもらうけど」

「ほらね、潔癖じゃん。面白い冗談は止してよ」

握手や軽く触れ合う程度なら平気だが、素肌での過剰な接触は必要最低限したくない。

それだけなのにどこが潔癖なのだろうか。

だけど、うん。やっぱり結婚して家族になるよりも、こうして師弟、友人、他人として喋る方が楽しいな。

「…そろそろ、話に区切りはついたか？Aに話があるんだが」

「あ、え、志賀さん！？」

いつの間にか補修室の扉に寄り掛かっていた志賀さん。賢治さんは気が付いていたのか特段驚いた様子はなかった。