【文アル】文豪のみぞ知る文豪 (ページ21)

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#２１ページ21

「――あのときの風景とよく似ているッス。でも、敵は違う……」

三好の言葉には誰も反応しなかった。何か言葉を返すべきではないものだと全員が理解していたからだ。数メートル先の原稿用紙を丸めた羊の様な敵を二匹、確認して各々戦闘態勢になる。

『いい？今回の潜書の主要攻撃者(メインアタッカー)は君達二人だ。ボクと三好くんはあくまでも補助役だよ』

真面目な顔で私と梶井に賢治さんは最後にこう言っていた。死なないでね、と。

ああ、賢治さん。あなたにそう言われたら、死ねないですよ。人生の恩人の言葉は絶対だ。

「気のせいじゃなければ、体が軽いね」

「確かに、何か変なもの食べたかな？」

「それは後で説明するから！来るよ！気を付けて！――成仏、してください！」

バンッと賢治さんと三好の銃から弾が飛び出し、それぞれ別の敵にぶち当たる。敵は少し後退しよろけたものの、まだまだ動けるようだった。凄いな、私だったら死んでる。

ぐっと短剣を握る手に力を籠める。カタカタと震えるのを隠すために。

「……A、手、震えているよ。君にも怖いものはあったんだね」

「……梶井こそ、いつもの飄々とした笑みはどこにやったんだい？」

互いに敵から目を離さずに揶揄い、それからフッと笑い敵へと駆け出す。

怖いものなんて無いさ。何を言ってるんだ梶井。そう叫んだつもりだった。実際、口から出たのは意味のない息だけだったが。

敵の刃が私に迫る。首を狙っていたそれを左手の短剣で防ぎ、右手の短剣で敵の首らしきところを刺せば手には感じた事のない気味の悪い感触が伝わって来た。

「A！危ない！」

梶井の声に反応して彼が居る方向を見れば、敵がぼたぼたとインク？墨？みたいなものを地面に垂らしながら猛スピードでこちらに向かって来ていた。
予想するに、梶井に致命傷を負わされて彼に敵わないと分かったから最後の力を振り絞って私を殺しに来たというところだろう。

それにしても梶井の焦った顔は普段見れないものだから珍しいなぁ。何を焦っているのか分からないけど。