【文アル】文豪のみぞ知る文豪 (ページ17)

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#１７ページ17

「“やいやい、お前(おめぇ)以外に俺の世話は誰が焼くってんだ。早く、早く起きろ”」

弾むような、歌っているような安吾の声にいつの間にか落ちていた意識が戻る。

「“男はついに背を丸め泪を流した。惨めな恰好が更に惨めになった”」

「“起きろ、起きろ。あゝ、頼む。お前が居ないと俺は何一つ出来やしねえんだ。起きてくれ”」

オダサク、太宰と続いた。聞き覚え、いいや見た覚えのあるその文にテーブルに突っ伏していた体を起こし、三人分の期待の込められた目を受け止めながら続きを読む。

「“男がついに、懇願した。神との約束は破られた。途端に弱まる雨脚。何処かへ去り行く雨雲。まるでこのまま女の意識も良くなるかと期待しろと言いたげな天候の変化に男は気が付くことなく泣いた。女の手を決して離さず強く握りながら懇願を止めない。いつの間にか、懇願の声は絶えた。涙は乾いていた。”」

生前書いた二作目の終末部分だ。読み終わり、くぁっと欠伸をすれば三人は苦く笑った。ああうんごめんね、雰囲気ぶち壊してくよ。

確か、妻に何もかもをやらせていた男が神に「どんな事があろうと誰にも懇願するな」という約束をして、それを破る話だった。

「真泉A、神の情(なさけ)より、ってな」

「実はこれ完結してないんだよね」

ニイっと悪戯っぽく笑った安吾に真実を言う。

「えっ初耳！」

「誰にも言ったことないからね。それに……」

「それに？」

三人の興味津々の少し子どもっぽい視線が向けられる。

「これはどうしても、結末が悲しいものにしかならなかったから」

「と、言うと？」

「えぇっと、私は基本的に大団円が好きでね。いかに現実離れしていても、それは物語を書く前から決められている終わり方なんだ。

悪者は成敗され、主人公は幸せに暮らす。そんな結末が私の物語の絶対条件。これを書いている時はちょっと精神がアレだったものだから、どんなに考えても書き直しても結末は変わらず、物語は悲劇として終わりを迎えたんだ。

しかしどうだろう！主人公を変えて悲劇になる直前までを消したら！なんと私が望む完璧とは言えない大団円へ早変わり！取り敢えずそれで完結させて、いつか手直ししようと思ってたら太宰に持っていかれて、いつの間にか死んでた」

ふむふむと頷いていた三人は最後の言葉に、想像していた通り苦笑いした。