レイニーデイ2 【影山飛雄】

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日が落ちた。
肉まんを食べたせいか、
身体がぽかぽかする。


「スガ」


二人になった帰り道で、
慎重な面持ちで語りかける友人に、こちらも姿勢を正した。
二人無言で、歩き続ける。


「……あれで良かったのか？」
「え？」


正セッターは一人だ。
気を遣わせただろうか。
俺は全然大丈夫。
こう言えば、あの形相で睨みつけられるだろう。
悔しい、かな。
こう言えば、彼は笑ってくれるだろうけど、
自分の何かが持つかどうかが遥かに推測し難い。
……いや、きっと持たない。


「潮崎の。」
「え？あ、あぁ、連絡先……のこと？」


突拍子もない疑問に、心配して損したな、と苦笑いする。


「Aは、自分で聞きたがってたんだけどさ。」
「はは、シャイなんだろうな、きっと。」
「だな。
多分、影山にも問題有りだろうけど。」
「……で、助け舟を出したってわけか。」
「そう。
初めくらい、いいかなぁ、って。」


星が見え隠れする。
視界が滲む。
ゴシゴシと目を擦れば、
ゴミが入っていただけだった。


「俺が下の名前で呼んだら、
怖がられるかな、」


ふと呟いた友人に、目を見開いた。
俺だって、自然と、気づいたら、Aって呼んでた。
………なんて言ったら、
怒られるかな。


「そんなことないだろ。」
「お前なりの配慮だったんだろ？」


星が、瞬く。
掴めそうなくらい近くにあって、手を伸ばす。
でも当たり前だけど、それには程遠くて、手が空気を掴む。


「影山の前では、……潮崎さん、って呼んだこと。」


気づかないとでも思ってたのか、と笑いながらお腹を突つかれる。


"潮崎さんも！"


「あぁ……あれは、
……うん。だって、なんか可哀想じゃん。
顔に好きって書いてあるようなモンなのにさ、俺がAのこと、名前で呼んでたら、
影山、一週間くらい落ち込みそうじゃん。」


「スガって気配り上手……だよな。」
「えっ？これは気配りなんかじゃないべ。」


いつもの真面目な顔は崩れない。


「……でもさ。」


家々から、ランプの灯りが零れる。
それは、目の前のみならず、うんと先まで続いていて、
こんなに辺りは暗いのに、
少しも寂しくなんてないし、
少しも迷いそうにないし、
少しもやるせない、なんて思わなかった。


「自分にも、気遣えよな。」


根幹に触れずに励ます友人に、
ひどく泣きたい気持ちになった。


「………うん、」


でもなぜか、
触れないでいてくれた友人に、
ひどく安堵した。


『空振りの日』

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