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生憎私は今日、教室の掃除当番だった。
廊下の突き当たりの掃除道具のロッカーへと向かう。


「うわっ、」


後方で、バザバサ、という紙が散らばる音がした。
来た道を振り返れば、大きな図体をした黒髪が、とんでもない量のプリントを廊下にばら撒いていた。


「影山君、」


当の彼は、自らの失態を未だ理解できていない様子である。
慌てふためいて、眉間に深く皺を刻み込んで、プリントを掻き集めている。


箒を持ったまま、小走りで彼の元へ行く。
あと数歩。
少しだけ歩みを止めた。
二人きりの空間で、自分から話しかけるのって、かなり勇気がいるんだな。


もう一歩、
踏み出した。



「影山くん!大丈夫!?」



ふんわりとした良い匂いがした。
甘い匂いをしたそれは、
誰でも惹きつける程の魅力があった。


「手伝うよ!」


ソプラノの高い声が、廊下に響く。


「……あざっス」
「凄い量だね。」
「いつも頼まれるんだよな。」
「影山くんが意外と先生に信頼されてるってこと?」
「意外とは余計だ」
「冗談だよ。」


笑う。
その空間にいることが、
心底愛おしい、と言った風に、
笑う。
微笑む。
目を細める。
頬を赤らめる。


凸凹な後ろ姿をした2人の背中を見つめる。
同じ廊下の延長線上にいるはずなのに、
2人はどこか遥か遠くにいるようで。
今すぐ跳ね除けたい。
そこに居たい。
そんな風に浮かぶ気持ちを脳裏に描いては消した。


嫉妬なのだろう。
醜いのだろう。
憎いのだろう。
羨ましいのだろう。
悔しいのだろう。
そんな自分が、
嫌いで仕方が無いのだろう。
そんな風に思う自分を、
信じたくはないのだろう。


素直に好きだと言えたのなら。
素直に好きだとアピールできたのなら。
どれだけか楽になれるだろう。
負けないくらい、想っていた。
それは互いに同じなのだろう。
だからこそ、この醜い嫉妬という感情は筋違い。


教室から、早く持ち場に戻れと急かす声が耳を劈く。
今行く、と言った乾ききった喉からの叫びは、
言の葉にさえならずに露になって消えた。


嫉妬の裏に、
不思議とこの状況に納得している自分がいた。
彼女は、周りの目を気にすることなく、
ただ、全てを失う覚悟で、
おおっぴらに全てを曝け出して、
彼に恋慕を向けている。
それに比べて私は、
友情も恋心も、
どちらも捨てきれずに、中途半端で。


こんなもの、
初めから結果は決まっているじゃあないか。


だって、私は、


あの子と同じ笑顔ができない。


『たらればの日』

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設定タグ:影山飛雄 , ハイキュー!!   
作品ジャンル:アニメ
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mono(プロフ) - さくらまめさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。できるだけ皆様に納得していただけるような、素敵な展開にしたいです!パート3でも宜しくお願いします! (2014年11月17日 23時) (レス) id: ae3790c4ff (このIDを非表示/違反報告)
mono(プロフ) - 湖々さん» コメントありがとうございます。長かったようで短かったです!笑 納得のいく可能な限り最大限のエンドにしていきたいです!そう言っていただけて嬉しいです。パート3でもお待ちしています!宜しくお願いします! (2014年11月17日 23時) (レス) id: ae3790c4ff (このIDを非表示/違反報告)
mono(プロフ) - 真夜花@影山厨さん» コメントもありがとうございます!本当に素敵なイラストで、嬉しすぎでした。そう言っていただけて嬉しいです。ぎこちない2人ですが、今後とも見守っていただけると嬉しいです。パート3も宜しくお願いします! (2014年11月17日 23時) (レス) id: ae3790c4ff (このIDを非表示/違反報告)
さくらまめ - パート2お疲れ様でした!!monoさんが書かれるもどかしい二人、いきいきしているサブキャラたちが大好きです!これからも応援しています!パート3も待ってます(*^_^*) (2014年11月17日 20時) (レス) id: 50383f2ae3 (このIDを非表示/違反報告)
湖々 - いよいよパート3ですね!!どんな風に展開するのか楽しみです。更新無理せず頑張ってくださいね、もちろんパート3も愛読させていただくと思います、笑 (2014年11月15日 8時) (レス) id: cdc5b89ea9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mono | 作成日時:2014年8月7日 21時

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