レイニーデイ2 【影山飛雄】

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「潮崎さん」


静まり返った夜の住宅街に、
彼の低めの声が響いた。
そっと上を見上げれば、彼の顔があった。
そして背景には、雨でも降るのだろうか、少しだけ曇った空が見える。
月は雲に隠れ、星は一つさえも瞬いてはいなかった。
けれども、街灯に照らされたためか彼の表情はよく見えた。
酷く怯えたような心配したような顔をしていた。


「迷惑じゃ、なかったか、」


ぼそり、と吐き出された言葉に詰まる。


「え？迷惑？」
「昨日の電話、とか、
来週の日曜、とか、」


もごもごと発される声は、少しだけ聞き取りにくかった。
彼の藍のかかった瞳を見れば、
バッ、と逸らされてしまったので、
こちらもなんだか気恥ずかしくなり俯いた。


「ううん、そんなことないよ、」


やはり、面と向かって話すとなれば、
素直に物を言うことができないのだ。
本当は彼からの連絡が、嬉しかったの。
飛び上がるほど嬉しくて、
昨日はあまりよく眠れなかったの。
それほど、嬉しかったの。
偽りなんて、ないの。


「本当に？」
「うん。」


そんな可愛げのある喜ばれそうな言葉は、
喉元まで出かかって、
すぐさま泡になって消えた。


「本当にスポーツショップで大丈夫スか？
潮崎さんの行きたいとことか、」
「全然いいよ。
私も、一回行ってみたかったから。」


貴方とならどこでもいいのに。


「本当に？」
「大丈夫だって。
……どうしてそんなに気にするの？」
「だって、俺が無理矢理誘ったから、」


無理矢理なんかじゃない。
むしろこの際、無理矢理でも何でもいいの。
少しでも関わりを持ちたいの。


「無理矢理って……」
「他に予定は本当にないスか？
家族で何処かに行くとか、
あ、ほら、よく一緒にいる彼女達と、どこかへ遊びに行ったりするとか！」
「ないない！暇だから！」

きっと、私も人間だから、
貴方との約束を優先するだろう。
それほど貴方と時間を共有することは、
困難で高貴で恐れ深い喜ばしいことなの。


「なら、良かった、」


嬉しそうに頬を掻く。
街灯の真下を通った時、
彼の首元がほのかに色づいているのがわかった。


急激に体温が上がるのがわかる。
もしかして、なんて淡い期待と思惑を描いては消した。
自然と緩む頬に歯止めが効かない。
ダメだダメだとわかっていながらも、
肌寒いにも関わらず、
全身が火照る。


「楽しみ、スね、」


どうかどうか、
雨よ、
降らないでくれ。


『スイートデイ』

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