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車がバイパスに入る。車1台どころか人っ子一人居ないというのに、ゼロはご丁寧にウインカーをつけている。
無駄だななんて思うが、本人に言っても当然のことだろうと返されるのだろう。ごもっともだが。
「そういえば、さっきはどこに撃ったの?2発目」
1発目が街灯だということはわかったのだが、2発目がどこに撃たれたのかは判断できなかった。だが、彼女がいずれトラックが止まるというのだから問題ないのだろう。
「タイヤだけど」
そう言う彼女は、風邪で乱れた前髪を手櫛で整えている。
「タイヤ…」
「そうだね。前輪に撃ち込んだから、すぐに止まってくれるはずだよ」
彼女は背もたれに身体を預ける。そして、やがてオレの様子をチラチラ伺いながらもごもごと口を動かす。いや、動かしかけるの方が正しいだろうか。
「…あー…その」
そして、つっかえながら何かを言う。気恥しそうに頬を掻き、ぶっきらぼうにオレに何かを伝えようとする。
「あ、ありがとう。…その……さっき…」
口をすぼませる彼女は、一瞬オレを見るがすぐに目を逸らす。
「…え、えーと。オレ何かしたっけ…?」
だが、生憎オレに心当たりは無いわけで、悪気は無いが申し訳ないという気持ちで彼女にはにかんだ。
「はあ!?さっきの事なのに忘れたの?」
もちろんそれで許してくれるはずがなく、彼女は動揺したようにオレにつっかかる。
「もしかしてあれかな?足押さえてたやつかな?
あれなら気にしないで。オレもあの位で役に立てたなら満足だから」
「はァーっ?はァーっ!?」
一か八かでさっきの出来事を話してみるが、どうやら違ったようだ。
「そうじゃなくて、さっき…その大丈夫って…」
「おい、あのトラックだよな?」
Aは言いにくそうに言葉をつっかえ、両手の指先を弄びながら口を動かすが、それはゼロに阻まれた。
「あ、ああ!」
やがて、動揺したようにゼロに返事を返した。
「やっぱなんでもない」
そして、再び素っ気ない態度に戻ってしまった。
風でやや皺になった服を軽く伸ばし、Aは前方のトラックを見据える。
「その辺に適当に停めてくれ。
心配した素振りを見せて近づこう」
先程の会話なんてなかったかのように、ガラリと雰囲気を変えた彼女は車を出るためにドアハンドルに手をかけた。
*
「…降谷。どうやら後ろは春が来そうだな」
「…?何言ってるんだ班長。今は秋だぞ」
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あまちー(プロフ) - いずみさん» ありがとうございます!キャラの濃い夢主ちゃん、かあいいですよね (2022年12月15日 5時) (レス) id: 49054d0acf (このIDを非表示/違反報告)
いずみ - 夢主好き (2022年11月13日 19時) (レス) id: 5bd30ec6cb (このIDを非表示/違反報告)
あまちー(プロフ) - 莉久さん» うわー😭嬉しいお言葉ありがとうございます!感情移入しにくい夢主かなって少し後悔してたんですけど、そう言っていただけると励みになります🙇♂️ご期待に添えるよう更新頑張ります💪 (2022年8月25日 16時) (レス) id: 49054d0acf (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - めっちゃくちゃ面白くて、つい一気読みしちゃいました!夢主ちゃんの性格が大好きです!この事件がどう解決されるのか、恋愛は発展するのか……楽しみです!更新頑張ってください!!! (2022年8月24日 13時) (レス) @page5 id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あまちー | 作成日時:2022年8月21日 22時