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気が付いたときには、俺の顔が藤ヶ谷の両手で挟まれていて、俺は上を向かされていた。

こんな状況どうにも耐えられなくて、藤ヶ谷の手から自分の首を思い切り抜き取ると、

右手首を掴まれ連れ去られた。


「おいどこ行くんだよ」

藤ヶ谷は俺の声なんか聞こえないとばかりに、俺の手首を引っ張ってぐいぐい進んでいく。

連れ込まれたのはこの階の端にある小さな喫煙室だった。

まだ朝早くて、煙草の匂いは全くしないはずなのに、どうしてだか息苦しい。

藤ヶ谷の息遣いが狭い空間に響く。


「な、に…」

やっとの思いで声を出すと、藤ヶ谷はパッと俺の手首から手を離した。

強く掴まれすぎて、赤くなっている。それを嬉しく思ってしまう俺は、おかしいのだろうか。


先ほどの、藤ヶ谷の手が俺に顔に触れた余韻もまだ消えず、なんだか気持ちがふわふわしている。

そんな浮わついた心は、藤ヶ谷の一言によって奈落の底へと突き落とされた。


「きたやま、ごめん…」
「何が」
「変なこと言ってごめん…」


息が詰まった。

こいつにとって、俺のきたやま発言は、"変なこと" だったのだと気付かされた。

もしかしたら、なんて。

藤ヶ谷も俺のこと、なんて。

そんなはずあるわけなかった。


「いや、気にしてねーよ」

頭を垂れたままの藤ヶ谷を置いていくようにして俺は喫煙室を出た。

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作者名:谷山 | 作成日時:2018年10月7日 19時

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