新しい名前 ページ29
人間界へ続く門の前にリリーは立っていた。
おばあちゃんがリリーのそばへ歩く。
「リリー、後悔はしないかい?」
その言葉にリリーはためらわずに頷く。
色々失ったリリーに何を後悔すれば良いのやら。
大臣達がやってきた。相変わらず憎たらしい。
「ワトソン家の皆様、ご機嫌麗しゅう。」
麗しくないわ、と心なのかでつっこむ。
「皆様は今から日本という国へ行ってもらいます」
ニホン?
「そこで新しい名前を授けようと思う。」
「新しい名前?」
リリーが呟くとあの騎士がまた声を張り上げた。
「大臣に無礼な言動を!」
「ワトソン家の無礼は今に始まった事ではない。気にしなくても良い。」
大臣がニヤリと笑うと騎士達や忠臣達もニヤニヤと笑った。
お姉ちゃんに頼りっぱなしだったくせに偉い口言いやがって。後悔させてやる。
大臣復讐の決意がさらに深まった。
「さて、新しい名前を授ける前に一つ約束をしてもらおう。」
大臣が口を開くと、ニヤニヤが収まった。
「ワトソン家には少しだけお世話になったから人間界での魔法の使用を許可する。」
家族達が驚いた顔でポカーンと大臣を見る。
騎士の不機嫌そうなオーラに気づいてスッと顔を戻したけど。
「私としては少しの活躍だけで魔法使用を許可することをためらったがあのお方の提案でしたので。」
仕方ないんだけど、と寛大な心を持つ私に感謝せよという言葉が流れてきたような気がした。
うざったらしい、このハゲ!
「いいかい、魔法の使用を許可したからその限度は守るように。人間界で悪さしたらその罪も償ってもらうぞい。」
人間界で悪さする意味ないしやらねーよ、と心の中で言った。
「契約魔術を使用する。」
大臣がなんか変な呪文を唱えるとリリーの頭がカチンとしたような気がした。
これで成立ってことなのかな。
頭をさすりながら神妙な顔になる。
「さて、ワトソン家の皆様には日本に住むに相応しい名前を授けよう。」
大臣が両手を広げて声高々に言った。
「そなたらに、森林(もりばやし)という苗字を授ける。」
リリーは咄嗟に胸を押さえて地面に膝をついた。
名前をもらうということは自分の体内にある魔力が一掃されるのだ。
体内に魔力が流れる感じが収まると、リリーは大臣を見上げた。
「リリー・ワトソン、あなたは今日から森林泉だ。」
リリーはまたぎゅっと目を瞑った。
人間界への門が重々しく開いた。
ここから伝説の物語が始まる。
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作者名:ザン | 作成日時:2019年8月7日 0時