煉獄さんと恋がしたい (ページ1)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:475 hit

出会いページ1

暗い夜道を歩いていた。
しゃん…しゃん…と耳の奥で遠い鞠の音がする。
幼い頃ついていた鞠の音だ。
思えばあの頃は自由だったと今思う。
昔…七五三の時だったろうか…
多忙な両親が私に美しい着物を着せて、
少し化粧をしてくれた。
頬紅と、それから口紅で茜さす私の唇は、しばし心を踊らせてくれた。
家に帰ってから親のいない間に庭で鞠をついたあの時の事を明瞭に覚えている。
頬を撫でる柔らかな風の匂い…ゆわれた髪が跳ねてゆく時の心地良さ…そして鞠の音を。

ザッザッ…

突然心が現実に引き戻される。

またなの…？

ザッザッという音は自分の背後から忍び寄ってくる。
ちらりと後ろを見ると男がサッと隠れるのを見た。

自分を以前からつけてくる男だ。
どうやら好意を抱かれているらしいが、私に全くその気はない。

最近切り裂き魔が出没しているなどと言う話が横行している…だがこっちも考えものだ。
何とかして欲しいものだが…。

すると突如前方から走ってきた男にぶつかった。

｢きゃっ｣
｢おっと！すまない！｣

男は私を咄嗟に支えてくれた。
私は驚いた。
炎のように派手に波打つ髪、龍のように飛び込んでくる真っ直ぐな眼差し、そして…炎のあしらわれた…派手な羽織……
そして目の端に、怒りを感じたように思わず男が道に出たのを見て、咄嗟に隠れるように男にしがみつく。

すると驚きもせず男は黙って私に耳打ちした。
｢…もし、お嬢さん、あの男につけられているようだが｣
｢ええ…以前から私を付け狙っている男よ…困っているの｣
私は隠れながら男の動向を伺った。
するとワナワナと震えながら男が飛び出してきた。

｢Aさんに…触るな！この何処の馬の骨とも知らぬ男が！｣
罵声を浴びせかけたのに私が静かに返事をする。
｢お断りしたはずですが｣
｢で…でも…この男…貴方に触ったよ…？あ…貴方が危ないと思って…｣
｢危ないのは貴方の方です！…近頃は切り裂き魔も出ると言うのに！ついでに突き出しますよ！｣
喝を入れると男はカーッとなって私がしがみついている男に向き直った。
｢でっでもっ貴方にこの男っっ…！触った…！憎い…憎いよ…だから………死ね｣
どこで手に入れたのか分からない刃物を振り上げる男を見て、私が不味ったと心の中で羽織の男に詫びながら目を閉じかけたその時、

〈キィン！〉

と音がした。

｢それは頂けないな、君！｣

快活な声が夜空に響いた。