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あの日からずっと、寝つきが悪くてすぐに眠れない日が続いていた。だから私は窓の外をしばらく眺めてから眠るようになったのである。
ただボーッと見ているだけ。空を見上げている時は見たくないものも見えず、考えたくないことを何も考えずに済んだ。
しかし、いくら夏に近づいているからといって、窓を開けたまま寝たのは良くなかったのだろう。毛布にくるまって居たとしても、結局は息苦しくなって知らないうちに身体から剥がしていたようだった。
風邪を引いた時と似た症状が私を襲い、身体が重たくて頭が痛い。割れそうになる頭を抱えるように額へと手を当ててみれば、少し熱い気もした。
だが今日の私には休むなんて選択肢はないのだ。本日は体育祭の日であり、天気はカラリと晴れ渡る青空。それに高校初めての体育祭は出たいため、ふう、とゆっくり一息ついてベッドから降りる。
足の裏に伝わる床の冷たさが火照る身体には気持ちよく、思わず目を閉じてしまいそうになるのを頬を両手で軽く叩いてはこらえた。
これから朝食とお弁当の準備しなくてはならない。今日はお兄ちゃんが頑張れるように、いつもより美味しくしようと、昨日の買い物は時間をかけて食材を選んだつもりだ。
美味しくなりますように、と天の神様に祈ってから立ち上がる。足取りがふらつくが、力を入れて意識を保っていれば何ともない。
もう一度自分の頬を数回叩き、気合を注入する。冷たい水で顔を洗うと、少しだけ気分がスッキリしたような気がした。
『……おはよう、お兄ちゃん』
朝食が出来た頃、起きてきた彼は何も言わずに自分の席に着く。焼きたてのトーストを無言でかじり、眠たそうな目をしょぼつかせていた。
昨日もバイトが夜遅くまであったため、もしかしたら疲れが取れていないのかもしれない。いつもより甘めにしたコーヒーを彼の前に置けば、一口飲んだ彼は一瞬だけ眉間に深くシワを寄せる。
思わず失敗してしまった、と彼からの怒号を身構えるも、特に何も言われずにお兄ちゃんは食器を流しに置く。その姿をパチクリと瞬きしながら見ていると、今度は怪訝そうな顔で睨まれてしまった。
『……なに?』
『う、ううん……これ、お弁当……』
無言で受け取った彼の背中に「行ってらっしゃい」と声をかける。いつも通り返事のない梨の礫ではあるが、止めようと思ったことは一度もなかった。
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ハル(プロフ) - マキさん» わ〜( ; ; ) ありがとうございます!! そう思っていただけたのなら嬉しいです!! これからもよろしくお願いします! (2018年2月18日 14時) (レス) id: 25f689583f (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - 面白いです(^^) (2018年2月18日 8時) (レス) id: 28245e4945 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがとうございます!続編、ぜひ見ていただけたら嬉しいです(^^)これからもよろしくお願いします (2016年6月8日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
ムーたん - 続篇、楽しみです!これからも頑張って下さい!! (2016年6月7日 17時) (レス) id: 5500c96e92 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがたいお言葉頂戴します(^^)これからもどうぞよろしくお願いたします! (2016年5月7日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2016年4月26日 21時