嫌な ページ3
彼は私の手を取り、ゆっくりと歩みを進める。
部屋からでるとずっしりとからだの重たさを感じた。それはもう歩けないほどに。
けれども日々樹渉が私の手をとった瞬間、重さはなくなった。
これがこの人に縛られているということなんだ。
日々樹渉の隣を歩いていくと、どうしてだろうかとてもワクワクする。
きっとこれは自分が男の人と滅多に歩くことがないから。
「楽しそうですね」
日々樹渉がそう声をかける。
えぇ、そうですね。
「えぇ、そうですね」
思っていたことをなんとなく口に出すと彼はほんのすこしビックリしたようだった。
そのあとでまた何時ものような顔つきに戻る。とはいえ、残念ながらこの人に何時ものようなという概念はなさそうだ。
「貴女に喜んでもらえることが幸せです」
「幸せはそんな安いものですか?」
「いいえ、貴女という存在がとても高貴な存在なのですよ」
「そんなことはありませんだって私のお葬式には」
一人も参列しなかったでしょう?
そう言いかけて、やめた。彼の顔が崩れたから、日々樹渉の演技がほどけかけたから。
「……なんでもありません」
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