王子とめんへら (ページ8)

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あとべのめんへら彼女ページ8

「俺様が束ねる部員200人────その中には、お前もいるんだぜ、朽葉」

応急処置として朽葉の華奢な踝にテーピングを巻きながら説教をする。保健室のソファに座って俺に足を預けたまま、あそ、と興味なさげに返した。

コイツが足を捻ったのは、他人に階段で突き落とされたからだった。その場に駆けつけた時、朽葉はうう、と少し唸ったものの、俺が声を掛けたと分かるや否やゆっくりとゾンビのように起き上がった。そして苦しそうに腹を押さえながら、絞り出すようにどうしたの、と言った。

『大丈夫……だよ、あとべ』

馬鹿言え何処が大丈夫なんだ強がりも程々にしろとへらりと笑う顔に怒鳴りたいのを抑え、人目も気にせず保健室まで運んでやった。捻挫だと診てやれば勝手に動いてテーピングを取りに行こうとしたので、強制的に座らせた。

「とりあえず応急処置はしたが、万が一ということもある。手配しておくから、今日は病院に行け。いいな」
「はいはい、わたしは跡部様の保護下にいるってわけね」
「茶化すんじゃねえ」

真剣に聞けと睨めば、はあいと間延びした返事をした。

「それより手前、腕見せてみろ」
「見せてみろって、勝手に取ってるじゃん……」

靴下を履き終わった朽葉の腕を強引に掴む。相変わらず折れそうに細い腕に臆したが、無理やりシャツの袖を捲った。その手首には、赤く浮き出た線の跡があった。

────クソ、やっぱりかよ。

「手前、回数増やしたな」
「ん、んー……そうかも？」

指で傷を押せば、少し痛そうに声を我慢して頷いた。

「ハッ……この俺が、マネージャーの自傷行為ひとつ止められねえとはな」
「へへ、跡部にもできないことあるんだねえ」

片手で顔を覆う。自嘲気味な俺の笑いを見て安心したように、朽葉はまた顔ににたりとした笑みを貼り付けた。それが気味悪く、コイツの一番新鮮な切り傷を爪で押した。血でも出ればいいと思った。

「いっ、た……」
「痛いどころじゃねえだろ」

爪が食い込んだ腕を見て、俺を正気を欠いた目で見つめる。疑心と焦燥に埋め尽くされた表情にゾクリとした。

「へえ、ようやく人間らしくなってきたじゃねーの」

ひどいよ、やめてよ、あとべ。いたいよ。
そう下手に泣きながら懇願する朽葉が、どうしようもなく愛しく思えて。血が滲んだ白い手首をそのままにして、片手で頬を撫でた。