やなぎ の めんへら彼女 ページ5
「蓮二せんぱいいたあ」
「徠夢か」
陽の当たらない、少し寒い位置に座っているせんぱいの背中にべたあ、と抱きつく。せんぱいは座ってると丁度わたしの目線あたりにうなじが見えるから、こうしやすい。
「今日は何読んでたんですかー」
「泉鏡花の夜叉白雪だ、読むか?」
「せんぱいが朗読してくれるなら」
甘えただな、とせんぱいが呆れるように笑って、頭を撫でてくれる。せんぱいの体温がじわりと伝わって、大きな背中が心地いいから、ゆらゆらと揺れてみた。
「さあ徠夢、帰るぞ」
「ええ、もうちょっと」
「この態勢のままお前が寝る確率……」
「ひゃくぱーですね」
諦めて離れて、伸びをする。せんぱいは相当背が高いから、椅子から立つとわたしの目線から程遠くなるのがやっぱり寂しい。
「蓮二せんぱい、おんぶ」
「それだと手が繋げないだろう」
甘え過ぎだ、とわたしを諭すせんぱいはどこまでも優しくて甘い。せんぱいのブレザーを掴んだわたしの手を上からきゅ、と包んで下がり眉で笑う。
「もし家に来れば……お前の望むことは何でもしてやろう」
切れ長で鋭い瞳がわたしを捕らえて、それから宥めるようにキスをした。少しだけ長くて、息を吐いた頃にはもう目は閉じられていた。
「泊まりに行っていい、ってことですか?」
「ああ。数日、たまたま家族が家を空ける日が重なってな」
「やった!」
わたしの驚きで開いた目と弾んだ声を確認して、せんぱいは改めて笑って、声のトーンを上げた。そのテンションのまま、腕に絡みついた。
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作者名:あられ | 作成日時:2021年12月1日 1時