王子とめんへら (ページ3)

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ゆきむらのめんへら彼女ページ3

はあ、と彼女は溜息を吐いた。

「朽葉……今ので本日65回目の溜息だ。水やりをしている時もそうでは、花に良くないぞ」
「同クラだからって溜息数えるのやめてくれる」

キモイから。そう言って朽葉はまたはあ、と溜息を吐いた。隣の鉢に移動する彼女に着いて行く。

我がテニス部部長であり、彼女の恋人である幸村精市が入院して以降、朽葉はめっきり笑わなくなった(無論見舞い以外で)。代わりに溜息が増えた。そんな彼女を弦一郎はたるんどる、と一度喝を入れたが、また溜息を吐くだけだった。

「それはできない。これもまた、精市に報告しなくてはならないデータの一つだからな」
「……精市に？」

水やりを止めて、真っ黒な円らな瞳がこちらを向いた。俺は少し口角を上げてああ、と頷く。

「知らなかったか？学校での朽葉の様子に、彼奴は一喜一憂しているんだ。おかげでお前の別冊ノートを作らなくてはいけなくなった」
「へ……なにそれ。かわいいなあ、ほんと」

朽葉はカーディガンの袖口でにやけた口許を隠した。
精市がいれば、間違いなく「それは君の方だ」と言うだろう。

「じゃあ柳のストーカーも許すね」
「ストーカーではないが……」

朝から常に気だるげにあくびや溜息を繰り返していた朽葉が、ようやく笑った。それを見て、まあいいだろうと譲歩した。

彼女がまた水やりを始める。ふわりと風が舞って、花々の郁しい香りが俺達を包んだ。