第一章 月は満ち欠けを繰り返し、光の色へと染まりゆく

標的36　「グラウンドを三周走りに行く」 ページ38

「君のクラスの生徒、もう集合してるみたいだよ」

ほら、と言って恭弥が指さす先にはぞろぞろと集まっているクラスメイト達。
ほんぎゃああああ！遅れるうぅぅぅぅ！！

『じゃ、また返しに来る！！』
「暇だったら様子見に来てあげる」
『マジかよ！？』




ダッシュで昇降口まで走り、恭弥に貰ったシューズを履く。
サイズぴったり……でもないな、ちょっと大きい。靴紐をきつく結べば問題なさそう。
トントンとつま先を合わせ、運動場に出た。

「あ、Aちゃんギリギリだよ」
『はぁよかった……体育の先生は？』
「あのバインダー持ってる先生だよ」
『さんきゅーツナ、挨拶行ってくる』
「うん、いってらっしゃい」

ツナに一言残してその場を離れる。
バインダーを持っている先生が体育の先生らしい。なかなかにごつい男の先生ですね。
俺が寄ってくると、大体察したのか声を掛けてくれた。

「お前が転入生か？」
『はい、昨日から転入しました桜龍です』
「よろしくな。今日は体力テスト三回目だから、まぁ前回前々回分はお前やってないだろう？その分を時間が空いてる時にやっておいてくれ。何人か一緒に着けてやるから」
『態々すみません、ありがとうございます』

ぺこりと頭を下げてお礼を述べる。
一応年上は敬う事にしている。体裁とか俺の性格上とか。
実際、誰かを一緒に着けてくれるのはありがたいし。

「とりあえず準備運動だな。列に並んでおいてくれ」
『はい……それと、今日体育があると知らなくてですね。体操服借りたんですけど…』
「ああ大丈夫だ。ちゃんと返してやれよ？」

ははは！と豪快に笑う先生に俺もつられて笑った。
たぶんこの先生、俺が恭弥から借りたって分かっている。だってズボンの刺繍に視線を一瞬やったし。
特に何も言わないのは、関わりたくないからか、俺に気を使ってか。両方かな。
取敢えず、生徒の列の一番後ろに並んだ。




準備体操も終わり、グラウンドを三周走るアップの時間。
やっぱり恭弥のやつだからか、ズボンがずり落ちるので一生懸命、ウエストの紐を縛りながら走ってます。走るのより、走りながら紐を結ぶのが難しい。

『……ッ！できたぁ！！』
「A、ちゃん……なん、で…そんな、よ、ゆー、なのっ？」
『お前はなんでこれくらいで死にそうになってんだよ』

紐が結べたと思い喜んだ時、横にはツナ。
但し、死にかけてます。

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