43.Atsuto side ページ43
「こんなんじゃ、母親になんてなれない…」
気付けば彼女の頬はこけていて、その顔は青白く、体は随分痩せていた。
「どうすればいいか、わからないの…」
何故こんなに近くに居たのに、気付けなかったのだろうか。
「怖い…怖いよ…」
知らなかった。 気付かなかった。
今まで目を逸らしてばかりいたから。
「助けて…助けて、篤人くん」
彼女はずっと助けを求めていたのだと、
俺は今まで気付けなかった。
篤「…っ、」
ーーtrauervoll…
<…私、抱っこ出来るのかな>
<自分のことさえちゃんと出来ないのに、この子にやってあげられるのかな>
<ちゃんと、お母さん出来るのかな>
ーー
無力さから逃れる為、彼女から目を逸らした。
ーーtrauervoll…
<ピアノだって、ちゃんと弾いてもらえる人の傍にいた方が良いに決まってる>
<私はもう、弾いてあげられないから>
<私にはもう、必要ない>
ーー
罪悪感から逃れる為、彼女から目を逸らした。
「助けて…っ」
彼女をここまで追い込んでしまった俺に、罰が下らないはずがない。
篤「…A?」
俺の腕を掴んでいた左手の力が抜けた瞬間、彼女の顔が苦痛に歪んでゆく。
震える両腕でお腹を押さえた彼女は、そのまま床に崩れ落ちた。
篤「っA!」
降りしきる雨の音だけが響いていた。
大切なものを失くした、あの夜と同じようにーー
.
.
.
ーー「 切迫早産です。もう少し遅ければ、胎児も母体も危険な状態でしたよ 」
彼女を担ぎこんだ病院で医師から告げられた言葉は、自分の罪深さを宣告されたかのようだった。
その瞬間に込み上げてきたものは、この状況になるまで気付けなかったことへの後悔と、何より大切なものたちを失いかけたことの恐怖。
あまりにか弱かった彼女の感触を思い出し、握り締めた拳が情けなく震えた。
彼女が処置を受けている間に、俺は入院の手続きを済ませた。
どうやらこれから彼女の腕には四六時中点滴が繋がれ、トイレと食事以外はろくに動くことも許されなくなるらしい。
「37週まではなんとかお腹にいてもらわないと」
そう言っていた医師の言葉から察するに、きっとまた長い入院生活になるのだろう。
荷物を纏めるため自宅へと車を飛ばしながら、もう少し其処に居てくれと雨空に祈った。
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ぶたさんなの。(プロフ) - 昨日、今日と2日間かけて一気読みしました笑とても素敵な作品で浮気疑惑のところはやられたーって思ったりピアノの話になるたび私も練習しないとと思わされます笑 この作品は私の中で大好きな作品の1つになりました。 (2015年7月31日 23時) (レス) id: fb6db84d89 (このIDを非表示/違反報告)
おりん(プロフ) - laizさん、返信ありがとうございました!!ヒロインと内田さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきそうなシーン…嬉しいな〜!幸せそうな二人を見れて一安心…ここでスカルのベビー服!?内田さんもイカついの着てましたね!思い出して笑っちゃいましたよー(笑) (2015年6月16日 1時) (レス) id: 865a51165f (このIDを非表示/違反報告)
aquayu(プロフ) - 更新楽しみにしていました!希望の光が見えた瞬間、涙がとまらなくなったのは、私だけでしょうか?この作品、本当に本当に大好きです。 (2015年6月5日 22時) (レス) id: ff637bb026 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - おりんさん» 絶望の涙で泣き明かした夜だけど、この先に光が待っていそうな涙ですよね。思いっきり泣いて、何かが浄化してくれたらいいな。ちょっと足踏みしていた二人の背中を、「しっかりしてよ」と押してくれたのかもしれませんね^^そうそう、先程メッセージを送信しましたよ〜♪ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - すみれさん» 「大好き」のお言葉、動揺していた心に染み渡りました^^ありがとうございました。少し迷っていましたが、ようやく希望の光がさしてきた二人の世界、これからも変わらず執筆を続けていこうと思います。二人の、いや、三人の明るい未来、見守ってあげて下さい^^ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2015年2月7日 20時