37.Atsuto side / 37 ページ37
ーーtrauervoll…
<きらきら光る お空の星よ みんなの唄が 届くといいな きらきら光る お空の星よ>
ーー
きっと彼女の世界は相変わらず、音楽で溢れていたのだろう。
でも何も変わらぬ其の世界の中、自分の右手だけが音を生み出せなくなってしまったから、こんなにももがき苦しんでいるのだろう。
「ピアノだって、ちゃんと弾いてもらえる人の傍にいた方が良いに決まってる」
どんな言葉をかければ其の痛みを癒せるのかわからない。
こんな時でもまた、俺は何も言えないまま。
「私はもう、弾いてあげられないから」
音楽はいつか、彼女を救ってくれるのだろうか。
「だからもういいの」
それともこのまま、苦しめるだけなのだろうか。
「もう必要ない」
彼女を傷つけるものなんて此の世から全て無くなってしまえばいいのに。
音が彼女を苦しめているというのなら、いっそのこと何も聴こえなくなってしまえばいいのに。
「もう、要らない」
静寂に包まれた部屋に雨粒の音が響き渡る。
耳障りなガラクタのようなこんな雑音も、彼女の耳には音楽に聴こえているのだろうかーー
**********
朝起きて、仕事に出掛ける彼を見送り、ソファに腰掛けぼんやり窓の景色を眺める。
やることと言えばリハビリだけ。
相変わらず変わり映えのしない毎日は、憂鬱以外の何者でもなかった。
松「明日から暫く、リハビリはお休みにしてもらったから」
「え、どうして?」
そして相変わらず進歩のないリハビリは、日に日に私の恐怖を煽っていった。
松「さっき内田さんから電話あった。昨日、出来るだけ安静にって産婦人科の先生に言われたんでしょ?」
妊娠28週 推定体重911g
お腹の張りが再び気になり始め診察を受けた結果、医師から安静を言い渡されたのは昨日のこと。
松「無理しちゃ駄目だよ。今は無事に出産することが一番大切なんだから」
私は母になれるのだろうか。
この子をこの手で抱けるのだろうか。
ちゃんと、我が子を愛せるのだろうか。
「…でも、このくらいなら別に、」
松「駄目」
いつしか恐怖は、幸福をも勝っていた。
松「とりあえず今日でリハビリは休憩にしよう」
動かぬ右手が、大きくなってゆくお腹が、容赦無く迎えに来る明日が、怖くて仕方がなかった。
「……はい」
怖くて仕方がなかった。
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ぶたさんなの。(プロフ) - 昨日、今日と2日間かけて一気読みしました笑とても素敵な作品で浮気疑惑のところはやられたーって思ったりピアノの話になるたび私も練習しないとと思わされます笑 この作品は私の中で大好きな作品の1つになりました。 (2015年7月31日 23時) (レス) id: fb6db84d89 (このIDを非表示/違反報告)
おりん(プロフ) - laizさん、返信ありがとうございました!!ヒロインと内田さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきそうなシーン…嬉しいな〜!幸せそうな二人を見れて一安心…ここでスカルのベビー服!?内田さんもイカついの着てましたね!思い出して笑っちゃいましたよー(笑) (2015年6月16日 1時) (レス) id: 865a51165f (このIDを非表示/違反報告)
aquayu(プロフ) - 更新楽しみにしていました!希望の光が見えた瞬間、涙がとまらなくなったのは、私だけでしょうか?この作品、本当に本当に大好きです。 (2015年6月5日 22時) (レス) id: ff637bb026 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - おりんさん» 絶望の涙で泣き明かした夜だけど、この先に光が待っていそうな涙ですよね。思いっきり泣いて、何かが浄化してくれたらいいな。ちょっと足踏みしていた二人の背中を、「しっかりしてよ」と押してくれたのかもしれませんね^^そうそう、先程メッセージを送信しましたよ〜♪ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - すみれさん» 「大好き」のお言葉、動揺していた心に染み渡りました^^ありがとうございました。少し迷っていましたが、ようやく希望の光がさしてきた二人の世界、これからも変わらず執筆を続けていこうと思います。二人の、いや、三人の明るい未来、見守ってあげて下さい^^ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2015年2月7日 20時