きらきら星変奏曲 ll

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長年連れ添った相棒に会いにゆけるのは、彼が居ない時だけの特権

例え弾けなくとも、息苦しくなろうとも、私はピアノと向き合わずにはいられなかった。






私はこうして生きてきたのだ。

どんな時でも白黒の鍵盤に、全ての生き様を刻んできた。






「きらきら光る お空の星よ まばたきしては みんなを見てる きらきら光る お空の星よ」






両手を鍵盤に乗せてみても、動くのは左手だけ。

旋律が失われたきらきら星変奏曲は、随分と味気がなかった。






「きらきら光る お空の星よ みんなの唄が 届くといいな きらきら光る お空の星よ」






もう少し歌が上手ければ良かった。

そうすれば旋律が弾けなくても、綺麗な音楽を奏でられたかもしれないのに。






「きらきら光る お空の星よ まばたきしては みんなを見てる きらきら光る お空の星よ」






彼に歌ってとせがんだら恥ずかしがるだろうか。

歌詞がダサいなんて、馬鹿にされるだろうか。






「きらきら光る…」






いや、違う。






きっと困ったような顔をする。

罪悪感に苛まれたような顔をする。






「篤人くん…」






ほら、やっぱり。






篤「…急に取材なくなって、早めに終わった」






鍵盤の上で動かぬままでいる右手を見て、彼はゆっくりと息を飲んだ。



そして小刻みに揺れた真っ黒な瞳を、逸らした。






篤「…カルラがプリン作ったって。

食べるっしょ？」






もう聴きたくない？

こんな不恰好な音楽は。






ーーtrauervoll…



＜俺のお気に入りのバラ1は、篠崎さんが弾くやつってこと＞



ーー






私のピアノが好きだと言ってくれたのに






ーーtrauervoll…



＜風呂あがったらよろしく＞

＜弾いてくれんでしょ？俺が寝るまで＞



ーー






時には、貴方を励ますものであったはずなのに






篤「…外、雨降りそうだよ」






私のピアノはもう、貴方を哀しませるものでしかなくなってしまったのだろうか。






篤「早く行こ」






貴方を苦しませるものでしかなくなってしまったのだろうか。





「…」






ポツポツと、窓ガラスに雨粒があたる音が聴こえてくる。

その音程はE






篤「…何してんの？」






私は演奏者だ。

他人には聴こえない音を表現する為、此の世に生まれてきた。






「雨の音。ミミミミ、って」



篤「…」






でも、

愛する人に嫌われた音楽なんて、もう要らないー

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