33.Atsuto side ページ33
朝から一日中励むリハビリの成果はいつしか、夕方頃になると出始めるようになっていた。
ほんの僅かに、人差し指の第二関節が曲がるのだ
でも其れは束の間の喜びなのだと知っている。
翌朝になると彼女の右手は決まって、まるで昨夜見た希望が嘘かのように、また微動だにしてくれなくなっていた。
長い夜が明けると、振り出しに戻る。
その繰り返しの日々だった。
篤「寒い?」
ベッドの中で眠れずにいる彼女にこう問いかけるのはもう何度目だろうか。
「大丈夫、」
その肩の震えは寒さで悴んでいるわけではないことくらい、知っている。
彼女は怖いのだろう。
眠ってしまうことが。
長い夜が明け、目を覚ました時には、僅かに見えたはずの希望が跡形もなく消えているのだ。
そしてまた、動かぬ右手とひたすら向き合うだけの一日が、始まるのだ。
篤「…そ」
明日を迎えることが、怖いに決まっている。
いつしか彼女の好物を買ってくるのはやめた。こっそりとトイレで吐き出しているのを見た時、負担をかけていたのだと知ったから。
いつしか気晴らしに誘うのはやめた。あの日遅れて笑った彼女を見て、無理をさせていたのだと気付いたから。
俺に出来ることはせいぜい、震える其の肩に布団を掛けてやることくらいで。
もうこれ以上傷つけてしまわぬよう、そっと掛けてやることくらいで。
どうすれば其の恐怖を半分預けてくれる?
どうすれば其の不安を半分背負わせてくれる?
ーーーtrauervoll…
<あ、ケルンならあのチョコレート買ってきてくれてもいいよ?>
ーー
どうすれば、貴女の人生を狂わせてしまったこの罪を、償うことが出来る?
「ごめんね。気になるよね、」
謝らないでほしい。
悪いのは俺なのに。
「大丈夫。篤人くんは先に寝て?」
大丈夫と言われる度、拒絶されている気がしてどうすればいいのかわからなくなる。
「ごめんね、」
謝られる度、責められているような気がして気が狂いそうになる。
「…ごめんなさい」
謝らないでほしい。
悪いのは俺なのに。
篤「…おやすみ」
襲ってくる恐怖に肩を震わせる彼女に、俺はまた何も言えないまま、目を逸らした。
ーーーtrauervoll…
<私は、きらきら星変奏曲聴かせてあげたいな>
ーー
貴女の夢を奪ってしまった俺を、恨んでる?
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ぶたさんなの。(プロフ) - 昨日、今日と2日間かけて一気読みしました笑とても素敵な作品で浮気疑惑のところはやられたーって思ったりピアノの話になるたび私も練習しないとと思わされます笑 この作品は私の中で大好きな作品の1つになりました。 (2015年7月31日 23時) (レス) id: fb6db84d89 (このIDを非表示/違反報告)
おりん(プロフ) - laizさん、返信ありがとうございました!!ヒロインと内田さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきそうなシーン…嬉しいな〜!幸せそうな二人を見れて一安心…ここでスカルのベビー服!?内田さんもイカついの着てましたね!思い出して笑っちゃいましたよー(笑) (2015年6月16日 1時) (レス) id: 865a51165f (このIDを非表示/違反報告)
aquayu(プロフ) - 更新楽しみにしていました!希望の光が見えた瞬間、涙がとまらなくなったのは、私だけでしょうか?この作品、本当に本当に大好きです。 (2015年6月5日 22時) (レス) id: ff637bb026 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - おりんさん» 絶望の涙で泣き明かした夜だけど、この先に光が待っていそうな涙ですよね。思いっきり泣いて、何かが浄化してくれたらいいな。ちょっと足踏みしていた二人の背中を、「しっかりしてよ」と押してくれたのかもしれませんね^^そうそう、先程メッセージを送信しましたよ〜♪ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - すみれさん» 「大好き」のお言葉、動揺していた心に染み渡りました^^ありがとうございました。少し迷っていましたが、ようやく希望の光がさしてきた二人の世界、これからも変わらず執筆を続けていこうと思います。二人の、いや、三人の明るい未来、見守ってあげて下さい^^ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2015年2月7日 20時